なぜ若者は東京を目指すのか。シリーズ「令和の上京」では、元号が令和に変わった2019年以降に上京してきた人たちにスポットを当て、その背景を探る。初回は、『人はなぜ〈上京〉するのか』(日本経済新聞出版)の著者で関西学院大学教授の難波功士さんに、上京する理由の変化について聞いた――。(取材・構成=フリーライター・山川徹)
東京は未知の世界、憧れの街だった
東京なんて――。そう思いながらも、上京せざるをえない。令和になり、いえ、今世紀に入ってから、若者たちの上京の動機や東京に対する意識が明らかに変化しました。
かつて東京は未知の世界であり、憧れの街でした。地方に住む若者たちは、東京に幻想を抱き、希望ともにふるさとをあとにしました。
たとえば、弘前市出身で、劇作家の寺山修司は、1954年に早稲田大学への進学とともに19歳で上京しました。少年時代から東京に憧れた寺山は『誰か故郷を想はざる』で次のように書いています。
私は人知れず、「東京」という文字を落書きするようになった。仏壇のうらや、学校の机の蓋、そして馬小屋にまで「東京」と書くことが私のまじないになったのだ。
東京東京東京東京東京東京東京
東京東京東京東京東京東京東京
東京東京東京東京東京東京東京
東京東京東京東京東京東京東京
東京東京東京東京東京東京東京
東京東京東京東京東京東京東京
書けば書くほど恋しくなる
家賃や生活費が高くても、行かざるをえない
70年前に上京した寺山修司に対して、現代はどうでしょう。
ネットが発達し、SNSがこれだけ普及した令和のいま、若者たちは東京が地方に比べて、家賃や生活費が高いことを知っています。とはいっても、地元には職がなくて、仕事を選べない。東京に行かずに済むなら地元に残りたい。けれど、仕事について考えたら、上京せざるをえない。地元に残るよりは……と仕方なく消極的に地元を離れる。令和は東京への幻想や憧れが消え去った時代といえるかもしれません。