家賃3万円の仮宿がいつの間にか自分の家に

そんな状況だったので、東京に来るたび、イベントで共演した人の家を転々としていたんです。事故物件住みます芸人の松原タニシくんの家にもよく泊めてもらいました。もちろん事故物件です。

ただ、東京に行くたびにみんなの家に行くのも申し訳ない。そんな事情を知った怪談仲間のチビルマが「東京で安い家、探しておきますよ」と見つけてくれたのが、清澄白河(東京都江東区)にある築70年くらいのアパートです。風呂なし、トイレ共同で、6畳と5畳の二間に、キッチンがついて3万円。これやったら、東京で仕事があっても安く済むなと借りました。

吉祥寺、下北沢、高円寺あたりの西のほうも住んでみたかったんですが、ぼくには清澄白河―深川の下町が肌に合いました。ホントかどうかは知りませんけど、隅田川を越えて東京の東側に入るとカツ丼が100円安くなると町の人が教えてくれました。そんな雰囲気が性に合ったのかもしれません。

当初は住むというか、ホテル代わりの借宿にするつもりだったのが、居心地がよくなって、フェードインするみたいにいつの間にか東京に居着いてしまった。

「呪いの人形」を追いかけて東京に

上京する2つ目のきっかけが呪物です。

2018年に曰く付きの赤ん坊の人形を手に入れました。名前はチャーミーです。滋賀県の介護施設でチャーミーをかわいがった5人の利用者が次々に亡くなってしまったそうです。関係者の方に「気味が悪いから預かってほしい」と頼まれました。ぼくが呪物に本格的に興味を持つきっかけとなった人形なんですよ。

イベントでチャーミーについて話していたら、東京のテレビ番組から「田中さんはいいですけど、チャーミーだけ貸してください」という依頼が増えました。チャーミーが上京したまま神戸の実家に帰ってこなくなってしまった。ぼくが多忙なチャーミーを追いかける形で、上京したんです。

呪いの人形「チャーミー」を手に取る田中さん
撮影=山川徹
呪いの人形「チャーミー」を手に取る田中さん

だから、まさか東京で本を書いたり、呪物展を開いたり、テレビ番組に出演したりする自分の姿は想像もしていませんでした。