不登校児童が増えている今、学生を取り巻く環境も変わりつつある。教育・子育ての取材に10年以上携わる江口祐子さんは「都内の公立高校の選考資料に、中学時代の欠席日数が含まれなくなった。これは実は2年前からなのだが、このような不登校児童に寄り添った学校側の変更や取り組みを知っている人が少なく、小学生の親が『中学受験させた方がいいのではないか』と悩む一因になっている」という――。

不登校で起きる家庭内の変化

小中学校における「学校へ行かない状態が30日以上続いている状態」を指す不登校児童生徒数はコロナ禍以降増え続け、現在は、約30万人のぼるといわれている。

学校に行くことは当たり前だと思っていたのに、我が子が学校に行けなくなる。子どもを持つ親としては決して他人事ではない。

特に、小学校高学年や中学生になると、今後の進路をどうすべきか頭を悩ませることになる。

東京都に本社を置くソフトウェア企業・サイボウズが、昨年末に不登校・行き渋りの子どもがいる親1000人を対象にしたアンケート調査の結果を発表した。このアンケートを実施した「サイボウズ ソーシャルデザインラボ」では、さまざまな価値観を持つ人々が安心して暮らせる社会を目指し、サイボウズ流のチームワークに基づいた社会実験(育苗実験)を行っている。

今回の調査は、不登校の実態を把握すると同時に、保護者に求められる支援やフリースクール等の第3の居場所を探ることを目的に実施したもの。

それによると、親への支援で最も求められるのは「家庭や子どもとのコミュニケーション」。子どもが不登校になった理由がわからず、対話に悩む様子が見られる。また、この中には配偶者(パートナー)とのコミュニケーションも含まれる。

【図表】不登校の子どもを抱える親に対し、どんな支援を希望しているかを尋ねた結果
アンケートのデータより編集部で作成
【図表】不登校や行き渋り傾向の子どもがいる親として最も頼りたい人は
アンケートのデータより編集部で作成

このアンケートから見えてくるのは、子どもが学校に行けなくなることになって、家庭内がギクシャクしてしまうことだ。

皺寄せは母親に来ることが多い

不登校専門のオンラインプロ家庭教師「イエローシード」の代表で、不登校の子どもたちを指導している植木和実さんはこう話す。

「親御さんたち、とくにお母様から悲鳴のような声を聞くことが多いです。今は共働きの家庭が多いので、ご両親とも忙しい。ところが子どもが毎日学校に行けない状態になると日常生活が途端に破綻してしまいます。『昨日は行けたけれど、今日はダメ』のようになると毎日の予定も変わってきてしまい、その皺寄せは母親に来ることが多いのです」

子どもが辛いことがわかっていてもつい『いい加減にして!』と怒鳴ってしまうことを涙ぐみながら話す母親もいるそうだ。

「一方、子どもは子どもで、お母さんのことを思うからこそ本音を言えない子も多いんです。やっと言えたのに怒られてしまって、余計に気持ちを閉ざす……など、悪循環になっているケースもあります」

夫婦間でのコミュニケーションの差もある、と植木さんは指摘する。

「お母さんは話し合いながら解決策を探したいと思う方が多いようです。私は一人じゃない、パートナーの共感を得ながらこの過程を一緒に乗り越えたい、と。一方でお父さんも、愛する妻と子供の苦境をどうにかしたいともがかれています。ただ、論理的な話し合いによる具体的な解決策を求める傾向があります。結果、ままならない現実に苛立つことも多いようです」

これは脳構造の性差の一端に、由来するものかもしれないと植木さんは言う

「お互いに、家族の幸せを思っているのは一緒なのに、夫からは『お前、愚痴を言っているだけじゃん』と言われてしまうこともあるようです。時には夫婦間の話し合いだけでなく、学校の担任の先生やスクールカウンセラー、自治体が運営している教育相談所、または不登校に対応した塾や家庭教師など家庭以外に相談の場も見つけることも大事だと思います」