他局は「横並び」の自社防衛
最後に、今回のフジの騒動が他局やテレビ業界全体に与える影響とそこから学ぶべき点について考えてみたい。
各局は今回の件を受けて、「内部調査」を始めた。1月21日にまず日本テレビが調査を始めると表明、翌22日にはテレビ朝日はすでに調査をおこなったと発表した。続いて、TBSやテレビ東京も「遅れてはならぬ」とばかりに調査の実施を公表した。
この迅速な対応は評価したい。だが、同時に感じたのは、相変わらず「横並び主義」は健在だということだ。この「横並び主義」については、私が常々、警鐘を鳴らしている。
どこかが始めれば、安心して一斉に始める。どこかがやらないと、自分からはやろうとしない。それは、「ジャニーズ性加害問題」や「松本人志性加害疑惑」の際にも繰り返された。今回も、他局が中居氏の番組降板を決めたら自分の局も出演停止にしたが、その「理由」についてはまったく何も述べられていない。まったく変わっていないのだ。過去の「教訓」が生かされていない。
そもそも、中居氏の疑惑に関してはいまだ真偽が明らかにされていないのだから、それぞれの局の判断や理由が示されるべきではないのか。本人が承諾するかどうかはさて置き、「うちは本人に真相を話してもらいたいので、出てもらう」という局があってもいいはずだ。
「ヒト」をないがしろにしたテレビの試練
今回の問題はフジだけのものではない。制作会社や芸能事務所へのしわ寄せも、その先には他局への余波が待っている。例えば、フジと他局の両方で番組を作っている制作会社がつぶれたら、他局の番組にも支障が出る。
フジで取り損なった出演者のギャラは、他局に上乗せされるかもしれない。すべてのテレビ局がそういった影響を考えるべきだ。「フジは大変だね」と他人事のように思っていないか。そういった自らへの問いかけが必要だ。こういった「他人事感覚」や前述した「横並び主義」、そして「隠蔽体質」。以上の3つが、テレビメディアを衰退させる要因であると指摘したい。
フジだけでなく、テレビ業界全体が一丸となって「これらをなくしていこう」という意識がいま、必要なのではないか。
また、本論で主張した「ヒト・モノ・カネ」という順番で経営が健全におこなわれているかということに関しても、考えていかなければならない。過剰な「マネタイズ」は「ヒト」の士気を失わせ、「モノ」を劣化させる。大切なのは、現場も経営陣も共にこれらの難題に挑んでいくということだ。現場と経営陣が「断絶」している暇などない。
今回のフジテレビの問題は、すべてのテレビ局、すべてのテレビに関わる人に与えられた「試練」なのだ。