「現場」にしわ寄せや弊害が生じている
しかし、今回のフジの騒動においては、どうもこの「ヒト」が「ないがしろ」にされているように私には思えて仕方がない。そしてそのことによって、「社内」のさまざまな部署の「現場」にしわ寄せや弊害が生じていると考えている。その「現場」とは、大きく分けて以下の3つである。
1.「アナウンス」の現場
2.3.に挙げる「制作」の現場を支える「社内」各部署の現場
3.そして、肝心かなめの「制作」の現場
1.の「アナウンス」の現場の「ヒト」はアナウンサーだ。特に女性アナウンサーが世間からあらぬ誹謗中傷を受けているという事態が発生している。あるフリー・アナウンサーは私の取材に答えて言った。
「すでにフジを辞めて何年も経っているのに、今回の事件で『あんなことをやって、仕事取ってたの?』としばらく連絡がなかった友だちからLINEが来てびっくりした」
「あんなこと」とは、社内で力があるプロデューサーや役員などの会合に同席させられることを指している。それが「性的な上納」につながっていたかどうかは定かではないが、“恒常的に”おこなわれていたことは先日の会見でも明らかになっている。
そのアナウンサーは友人から「水商売みたいだね」とまで言われたという。「そんなことは、ほんの一部でおこなわれていること」と説明したと苦々しそうに語った。
彼女のように、面と向かって言ってもらえるのはまだましだ。ほとんどの場合の誹謗中傷は、SNS上で、匿名で展開される。そしてその「噂」は「事実」として拡散されてゆく。「デジタル・タトゥー」と言われるように、今回の騒動が落ち着いたとしても、その言われなき「レッテル」をはがすことは不可能に近い。
番組を作っても報われない
2.の「社内」各部署の現場は、番組を作る「制作現場」を支えている。なかには制作現場に行きたくても希望がかなわない人もいる。それでも、自社の番組にプライドを持っているから、日々の「不平不満」を飲み込んで「縁の下の力持ち」を担ってくれている。
私はテレビ局時代の37年間ずっと制作現場だったが、「管理部門」と呼ばれる著作権部や考査部、編成や営業、宣伝、そして人事や総務に至る彼らの助けで番組を作り続けることができたと感謝している。
彼らがいないと制作現場は回らないと言っても過言ではない。その彼らが、社内説明会の際に「私がフジに勤めているというだけで、子どもが学校でいじめられる」と涙ながらに訴えたという。胸が苦しくなる。会社を「誇り」や「アイデンティティ」の拠り所にしていたとしたら、なんと悲しいことか。
3.の制作現場においては、4つの場面でしわ寄せが来ている。「制作者としてのアイデンティティやプライド」「取材先や交渉先」「出演者」「制作費」である。