企業のIT部門は「AIエージェントのHR部門」になる

ところが現実はその予測をさらに先回りし、1月24日、オープンAIがレストランや宿泊施設などの予約を自律的に行うAIエージェント「オペレーター」の提供を始めたとのニュースが飛び込んできた。今は試作段階で提供先もアメリカに限られるものの、すでに実用化のフェーズに入ったということで、日本でも2025年内に広まり始めることになりそうだ。

フアン氏は基調講演で「AIエージェントの時代がきた」と述べ、企業や組織がニーズに応じたAIエージェントをスピーディーに開発・展開できるフレームワーク「Agentic AI Blueprints」を発表した。そして、「企業のIT部門はAIエージェントのHR部門になる」と力強く宣言し、AIエージェントが職場生産性を支える中心的な存在になることを予測した。それはけっして何年も先の話ではないだろう。オープンAIの動きを見ても、2025年内には一部の日本企業でも個々の社員がAIエージェントを仕事の中で使うようになり、フアン氏が示した未来も近々実現するのではないか。

エヌビディアが描く「2025年の世界」とは

CES2025でエヌビディアが発表した内容を踏まえ、同社が描く「2025年の世界」を筆者が主な5つのポイントでまとめた。

まず、ここまで解説してきたように、AIが「知能化されたパートナー」としてビジネスや日常生活で普及していく。これは間違いのないところといえるだろう。

次に、ロボットやIoTデバイスがリアルタイムで物理的なタスクを実行し、環境と連携する新たな技術基盤である「フィジカルAI」がロボットなどを通じて製造・物流や医療、生活等の現場に入り始め、最適化に寄与するようになる。

3つ目が、NVIDIA Cosmosが自動運転やロボットの統合管理プラットフォームとして動き始める。

4つ目が、完全自動運転が実現して移動の民主化が達成される。

そして5つ目が、人間とロボットが共存する持続可能な社会が生まれる。

以上の5点である。

中国「ディープシーク」の衝撃

エヌビディアのビジネスに対するディープシークの影響を最後に考察したい。ディープシークは、従来よりも低コストで高性能なAIモデルを開発し、高価なエヌビディア製GPUに依存しない手法を採用している。このため、エヌビディアの株価は一時的に大幅に下落した。

タブレット端末などに表示された、中国の新興企業「DeepSeek(ディープシーク)」が開発したAI新モデル=2025年1月27日
写真=共同通信社
中国の新興企業「DeepSeek(ディープシーク)」が開発したAI新モデル=2025年1月27日

しかし、AI市場全体の拡大に伴い、エヌビディアの製品需要が増加する可能性も指摘されている。AI市場の成長とともに、エヌビディアのGPUが引き続き主要な計算資源として活用されるかどうかが今後の焦点となるだろう。

ディープシークの衝撃は、AI開発における巨額投資が必須であるとの従来の認識を覆し、米国の大手テクノロジー企業のAI投資戦略に再考を促す。同社のオープンソース戦略は、AI技術の民主化を推進し、世界中の開発者にとって新たな可能性を開くものだ。

もっとも、同社のAIが中国政府の検閲基準に従っている点は、技術の透明性と倫理性に関する議論を引き起こしている。今後に注目したい。