「個人の仕事の向上」と「会社の業績アップ」を叶える職場はどう作られるのか。精神科医の樺沢紫苑さんは「東京大学の研究では、『集団的な感謝』が高まるほど『仕事への取り組み』『ワーク・エンゲージメント』が向上することがわかった。最高の職場をつくるための最強のツールが感謝なのだ」という――。

※本稿は、樺沢紫苑・田代政貴『感謝脳』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。

感謝によって個人の仕事が向上する

感謝が仕事に与える科学的効果を見ていきます。大きく分けて、「個人の仕事の向上」と「会社の業績アップ」の2つの効果が実証されています。まずは、個人の仕事に与える効果から見ていきましょう。

①仕事のモチベーション、パフォーマンスの向上

感謝によって自分の貢献が認められたと実感し、仕事に対する意欲が向上することが研究からわかっています。

自分にはできるという自己効力感。自分を律することができるというコントロール感が高まり、仕事へのモチベーションが向上します。感謝によって、自分の努力が評価される。もっと頑張ろう、もっとチームや会社に貢献したいという気持ちが、湧いてくるでしょう。結果的に、パフォーマンスも向上します。

②職場の人間関係の改善、ストレスの減少

感謝の表現は、職場の人間関係を深めるための有力な手段であることが多くの研究で示されています。感謝は、相互性やポジティブな評価を高め、仕事のパフォーマンスや従業員の満足度を向上させるだけでなく、ストレスを改善し、助け合い行動を促進します。

職場のストレスの9割が人間関係と言われます。職場の人間関係が改善されれば、当然ながら職場のストレスも減少します。感謝の表現は、職場での相互性、ポジティブな評価、活力を高めるので、感謝が多い職場は、ストレスフリーで働きやすい職場となります。

③仕事の満足度の上昇

他者から感謝されること、自分の仕事が評価されることで、仕事への満足度が上がるのは当然でしょう。しかし、「感謝の表現が増える」、つまり自分から積極的に感謝するだけで、仕事への満足度が上がることが研究で示されています。実に興味深いことです。

仮に全く人から評価されたり感謝されたりしなくても、自分からの感謝で、仕事への満足度を高めることができるのですから。

チームワーク
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感謝は「仕事の幸福」にとって不可欠な条件

④自己成長の促進

感謝を自己表現することで、自己改善、自己成長の意欲が高まります。「自分にはできる」という自己効力感が高まります。自分の成長を期待されていると感じ、より高い目標に向かって努力するようになります。

⑤向社会的行動が増える

「向社会的行動」とは、他者や集団のために自発的に行う行動で、思いやり行動とも呼ばれます。つまり、感謝によって、他者貢献の行動が増えます。

人から感謝されると、社会的価値観(自分は社会的に価値があるという感覚)が高まります。結果として、助けた人だけでなく他の人に対しても、一般的な他者に対しても向社会的行動が増加し、親切をしたくなります。感謝されると、社会貢献がしたくなるのです。

⑥仕事の幸福感の増大

仕事へのモチベーション、パフォーマンスの向上、所属感の向上、ストレスの減少によって、ワーク・エンゲージメントが増大し、仕事に「やりがい」を感じ、仕事が楽しくなる。結果として、幸福度が増大します。

以上から、「感謝の気持ち」は「仕事の幸福」にとって不可欠な条件と言えます