わかりやすい話をするには、どうしたらいいのか。テレビキャスターの草野仁さんは「何の努力もせずに、いい表現が生まれるわけはない。“引き出し”を増やすため、日頃からやっておいたほうがいいことがある」という――。(第3回)

※本稿は、草野仁『「伝える」極意』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。

リビングルームで真剣な会話をしているカップル
写真=iStock.com/mapo
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“話がわかりやすい”アナウンサーの特徴

Q:話がわかりやすい人の特徴は?
①大きな声で、賢そうな言葉選びで、抽象的な話ができる
②声が美しく、平易な言葉遣いで、たとえ話がうまい

これまで出会ってきたアナウンサー、キャスターの中で、私が「この人の話はわかりやすいな、よく伝わるな」と感じた方をご紹介します。

一人目は、同じNHKの先輩の、鈴木健二すずきけんじさんです。鈴木さんは話す言葉がとてもはっきりとしていて、声がとても美しいのです。また、音程感もしっかりしているので、とてもわかりやすく、気持ちよく聞くことができます。

二人目は、久米宏くめひろしさん。ちょうど私と同じ年の生まれです。TBSに入社し、同社を代表する看板アナウンサーとして活躍しました。1979年に同社を退社してフリーになりましたが、その前年の1978年から1985年まで、黒柳徹子さんと組んで、TBSの人気音楽番組『ザ・ベストテン』の司会を務めました。

その後、1985年から2004年まで、テレビ朝日の報道番組『ニュースステーション』のメインキャスターとして活躍していました。彼はとても背が高く、すらりとしていて、整った容姿の持ち主です。そして話し言葉が大変わかりやすく、誰にでも伝わる言葉遣いをしていました。

説明するときの表現も巧みで、聞いていてとても安心できる、聞く側が心を開くことのできる説得力がありました。『ニュースステーション』での主義主張にはいろいろと批判もありましたが、表現者としては非常に優れた素養をもった人だと思いますし、日本を代表するキャスターの一人だと思います。

「言葉遣い」「たとえ」「説得力」が大事

3人目は、私が福岡時代に大変お世話になった、元NHKの羽佐間正雄はざままさおさんです。羽佐間さんはスポーツアナウンサーとして大活躍をなさっていた方です。羽佐間さんが担当されていた『ニュースセンター9時』のスポーツコーナーの三代目は、私が譲り受ける形となりました。

羽佐間さんの解説は大変論理的です。試合の展開を論理的に説明されるので、「なるほど、こうきたら次はこうなるな」と、わかりやすく理解できます。論理的な解説の合間には、試合のこの後の展開の予測も続きます。ですから、試合の流れを楽しみながら観戦できるのです。

私は羽佐間さんの放送を聞いて、「何て現代的な、いい放送なんだろう。自分が目指すのはこんな放送だ」と尊敬していました。羽佐間さんは、NHKを退職されたのち、合計11回のオリンピックでの放送が評価され、「全米スポーツキャスター協会特別賞」を、日本人のスポーツアナウンサーとしてただ一人受賞されました。

3人の共通点を考えてみると、次の三つのことが挙げられます。まずは、言葉遣いが明瞭で明確であること。声の出し方、発音や発声がとてもよくて、言葉がはっきりと聞こえます。

次に、たとえ(比喩)の表現がうまいこと。「これはたとえばこういうことです」と、難しいことをかみくだいて言うときの言い表し方が、「まさにその通り」と感じさせるほどに的確です。これは、聞き手が理解を深めるためにはとても大切な要件だと思います。

最後に、聞き手を納得させる話の力、話術力があること。話を聞いて「よくわかった。なるほど、そういうことだったのか」という説得力をもった話の展開ができることです。相手に伝わる話をするには、この三つが大事だと思います。