「用意した言葉」より「心から感じた言葉」
実際に彼の肉体は、腕や太ももの筋肉がほかの選手よりも圧倒的に発達していて、「何かやっているんじゃないか」という噂がありました。そんな状況を受けての「ベン・ジョンソン、筋肉の塊」という言葉は、最終的にはドーピング検査を受けて失格になっていくという結末を暗示するかのような、素晴らしい中継だったと、今でも思います。
近年は、スポーツ中継において、「明らかに事前に用意したな」とわかるコメントを述べるアナウンサー、キャスターが増えているようです。それらの口上も、事前に考えておいたぶん、確かによく練られていて、それなりに演出効果はあるでしょう。
ですが私は、その場面を見た瞬間に頭の中に出てきた言葉を映像とともに表現できる、そんな瞬発力こそ、本当の「伝える力」ではないかと思うのです。事前に予想して作った作文よりも、目の前でその瞬間に起こることのほうが、圧倒的に真実です。
感情的な叫びやキャッチコピーなどでごまかさず、どう端的にまとめ、場の空気までも感じさせるような表現として言葉にできるかどうか。伝える側の能力は、そこにかかっていると言えるでしょう。
「やばい」が持つ意味を考えてみる
①確信と責任をもって表現を選ぶべき
②フィーリングで選ぶべき
では、相手に伝わる表現をするためのスキルアップとして、どんなことをすればよいでしょうか。おすすめしたいのは、自分の思い、伝えたい内容にぴったりくる言葉を探し、引き出しを増やしていくことです。
「自分はいつもきちんと気持ちを表す表現を使っている」と思っているかもしれませんね。しかし実際はどうでしょう。たとえば、「やばい」という表現を例にとってみましょう。巷でもよく耳にするし、実際に使ったことがあるのではないでしょうか。
辞書を引いてみると、「危険や不都合な状況が予測されるさま。あぶない」のほか、補説として、「若者の間では、『最高である』『すごくいい』の意にも使われる」とあります(デジタル大辞泉)。
では、具体的な使われ方を見てみましょう。
①「今日の発表、準備ができてなくてやばい」
②「昨日のランチのミニデザート、ちょっとやばくなかった?」
③「えっ、誕生日、覚えてくれてたんだ、やばっ」
④「先輩、この報告書の内容、やばいです」