部下の成長をプレゼンできない上司は上司失格

【澤円】組織内のコミュニケーションにおいて、特に「評価」などをするときに留意していることや、ルール化していることを教えてください。

【片石貴展】評価については3カ月に1回、給与改定については半期に1回、面談の機会を設けています。クリエイティブ職の評価面談にはわたしも必ず入るようにしていて、およそ30人と直接コミュニケーションを図っています。

評価の基準としては、例えばマーケティング職のプロデューサーであれば、「場づくりの力」や「磨いた技術(マーケティングの専門技術など)」、他にも「心構え」といった独自の基準を達成する必要があります。それらはマトリクスにして明確に表現し共有しています。

もうひとつ特徴的なこととして、メンバーのグレード(等級)評価の際は、対象となるメンバーとリーダー、プロデューサーやわたしを含めた役員全員が参加します。そして、みんながいる場でリーダーが提案し、最終承認するかどうかを決めているのです。

このとき、結果が出ているメンバーのグレードを上げるのを躊躇するリーダーは、全員から厳しい指摘を受けることになります。部下が成長しているのにその部分をプレゼンできない上司は、単なる保身に過ぎず、要は上司としてダメだという評価ですね。他人より自分を優先するマインドでは、そもそもプロデュースなんてできませんから。

片石貴展氏と澤円氏
写真=石塚雅人

「部下は上司の背中を見て学べ」は効率が悪い

【澤円】メンバーを引き上げることを怠るリーダーに対して、極めて厳しい目を向けているというのは、組織論としてとても興味深いです。

【片石貴展】部下にとって、「自分を引き上げようとしてくれている」ことが伝わるか伝わらないかは、とても大事なことだからです。「君の頑張りは理解しているから、上にも掛け合ってみるよ」なのか、「今回は足りない部分があるから、次頑張ろう」と伝えるのか。いずれにせよ、常に部下を引き上げようとするスタンスがあるかないかで、その関係性はまったく変わるでしょう。

しかもこれは、「できる・できない」の話ではなく、「やるか・やらないか」の話でしかありません。

【澤円】リーダーの意思次第というわけですね。では、経営者として、片石さんが理想とする組織像についてもお聞かせください。

【片石貴展】フラットな組織であることは重要です。必要な権限を与え、組織にとっての課題解決をすべてのゴールとし、みんなが同じ方向を向くことを前提にした組織という意味です。

大事なのは、「ことを成す」ために集中することですから、働くときはグレードなんて気にしなくてもいい。フラットに実力が評価されることも大切です。そんな組織に対する考え方を明確に定義し、必要な情報をオープンにして、瞬時に共有できる状態にしておくことが必要です。

よく「部下は上司の背中を見て学べ」みたいな考え方がありますが、もっと効率のいい方法があるということです。「言わないでもわかるだろう」ではなく、社員全員が自分たちの進んでいる方向を常に確認できる状態にしておくことが、経営や組織づくりのうえでもっとも重要だと考えています。