転職ではどんなことに気をつけるべきか。公認心理師の柳川由美子さんは「『自分に足りないもの』にばかり目を向ける人は、転職をくり返しても満足はできないだろう」という――。
カウンセリングに訪れた「30代エリート男性」
私のカウンセリングルームを訪れるクライアントさんの多くが、「会社がつらい」「やめたい」という悩みを抱えています。いわゆるブラック企業のこともありますが、誰もが名前を知る大手企業であることも非常に多いです。
30代男性Aさんがカウンセリングに訪れたのは、3社目に転職したばかりのときでした。Aさんは早稲田大学卒業後、大手旅行代理店に就職。希望していた業界で職場の人間関係もよく、不満を感じることはなかったといいます。
「30代になって2人の部下ができてからは一生懸命指導しました。部下たちは、悩みも相談もしてくれて、彼らの成長が自分の喜びになっていきました。でも20代の頃に比べて自分自身は成長できていない、このままでいいのかと不安を感じるようになったんです」
異業種の大手企業から届いた「スカウト」
活躍している同年代と比べて劣っているのではないか。Aさんは、そんな焦りから自分の市場価値を知りたいと考え、転職サイトに登録。それがきっかけで異業種の大手企業からスカウトを受けたといいます。
「給与などの条件もよく、業種はまったく違うものの前職のキャリアを活かせる仕事内容でした。大学の同級生がその会社にいた安心感も大きかったですし、スカウトの方や先方の採用担当者の熱意にもほだされて転職を決意したんです。コロナ禍に旅行業界の不安定さを痛感したこともあって、リスクの少ない業界だったことにも背中を押されました」
退職を告げると会社からは強く引き止められ、上司からは「もし転職先でうまくいかなかったら戻ってこい」という言葉までもらったそうです。
「かわいがっていた部下たちが気がかりではありましたが、成長を感じられる環境で仕事したいという気持ちのほうが強かったです」(Aさん)
ところが半年もたたないうちにAさんは転職を後悔するようになります。