なぜビオレはキレイキレイに勝てたのか

ビオレuが消費者、特に子どもたちに受け入れられたことについて、花王の開発メンバーは次のように分析している。

1.市場にない泡タイプをリリースしたこと
洗いやすさと皮膚への刺激性が低い泡状にしたことが当たる要因だった。加えて容器のコストダウンのために海外生産を行ったことも挙げられる。

2.低刺激性の弱酸性処方にしたこと
それまでのハンドソープはほぼ中性の処方だった

3.楽しい使い方を広めたこと

幼稚園、保育園、小学校を訪ねて「楽しい手洗い教室」を実施した。また、子どもたちのために「手洗い歌」を制作。洗う楽しさをアピールした。

ビオレuのヒットもあり、常務になった夏坂は花王を退職した後、都下にある国際教育で知られる啓明学園(幼小中高)の理事長を務めている。夏坂は当時を思い出して、こう説明する。

「僕らは手洗い用の石鹸を開発したんじゃありません。子どもたちに手洗いの楽しさを体験してもらおうと思ったんです。

かつて3回、失敗したわけですが、僕らが開発する際、メンバーには『過去に失敗したからこそ、そこから学べば成功確率は上がる。あきらめずに頑張ろう』と伝えました。自分たちがなぜ失敗したのかを見つめて、それを解析しないと仕事はうまくいかない。そう言いました」

撮影=関竜太
今ではすっかり当たり前になった泡ハンドソープの誕生には、開発者の血のにじむような苦労があった

「売れる」と確信した2歳児の言葉

私が思うに、日本初の泡ハンドソープ開発における教訓はふたつある。

ひとつはアインシュタインが言ったとされる言葉がヒントだ。

「同じ方法を繰り返して違う結果が出ると考えるのは狂気だ」

泡ハンドソープがリリースされる以前の3回の挑戦は「キレイキレイに負けたくない」というだけの追随作戦だった。同じような筋道で開発した商品が先行している商品に勝てるはずがない。花王のメンバーは視点を変えて開発したから勝った。

もうひとつの教訓はユーザーファーストを忘れないこと。売りたい商品を作るのではなく、客が欲しい商品を作る。これは商品開発の大原則だ。

幼稚園、家庭でリサーチした大熊はサンプル商品の回収中にある言葉を聞いた。それが忘れられない。

「発売前にサンプル商品を作って、ご家庭に使っていただきました。ある家庭を訪ねて、サンプルを引き取ろうとした時、そこにいた2歳のお子さんが悲しそうな顔でこう言ったんです。

『それ、持っていっちゃうの?』

あの時、私はこの商品は当たると思いました」

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