ノーベル賞受賞者ですら経済成長のさせ方がわからない
どうしたら成長率を高めることができるかは、簡単な問いではない。2006年に世界銀行が、貧困国のための成長の処方箋を、マイケル・スペンス氏、ロバート・ソロー氏らノーベル賞受賞の経済学者を含めた委員会を作り報告書の作成を依頼した。
その結果について、開発経済学の専門家でニューヨーク大学のウィリアム・イースタリー教授は、「21人の世界一流の専門家で構成される委員会、300人もの研究者が参加した11の作業部会、12のワークショップ、13の外部からの助言、そして400万ドルの予算を投じて2年におよぶ検討を重ねた末、高度成長をどのように実現するかという問いに対する専門家の答えは、分からないというものだった。しかも、専門家がいつか答えを見つけることを信じろという」と書いている(アビジット・V・バナジー&エステル・デュフロ『絶望を希望に変える経済学社会の重要問題をどう解決するか』日本経済新聞出版、2020年、270頁より引用)。
岸田首相は、中間層を厚くする、と言っている。しかし、どうしたら中間層を厚くできるのか。一つ確かなことは、所得の高い人と所得の低い人から税金を取って中間層に配ることはできないということだ。
所得の高い人は人数が少なく、所得の低い人はお金がなく、中間層はたくさんいるからだ。中間層には自分で頑張って中間になっていただくしかない。政府に中間層向きの仕事を作ったりすることができるとは思えない。政府ができることは、たとえば教育の援助くらいしか思いつかない。
低所得者を苦しめる「130万円の壁」
むしろ、できることを考えてはどうだろうか。所得の低い人の所得を上げることである。
いわゆる「130万円の壁」をなくすことと、補助金付きの最低賃金の引き上げ(これは、給付付き税額控除と似ている)である。まず、年収の壁から考えよう。説明するまでもないだろうが、年収の壁とは、妻の収入が103万円を超えると所得税を払わないといけなくなり、配偶者控除(38万円)が受けられなくなる。また、企業の配偶者手当が支払われなくなる。
106万円を超えると場合によっては、130万円を超えるとほとんどすべての場合で、社会保険加入が必要になる。これらにより、103万円、または130万円を超えると、妻が150万円程度まで働かないと、夫と合わせた家計収入がむしろ減少してしまうことをいう。うち、税金や控除については壁にはならない。なぜなら、税とは、追加的に得た所得の一部を取るものだからだ。
また、控除は年収が上がるごとに段階的に控除額を下げることで、壁にはならなくなっている。もちろん、限界的に税率が上がるので、労働意欲を阻害するのは事実だが、壁にはならない。坂がきつくなるということだろう。