日本の観光収入が急速に回復している。ジャーナリストで元日本経済新聞編集委員の大橋牧人さんは「東京は『旅行費用が安い都市ランキング』で4位に入っており、発展途上国並みの安さになっている。観光収入はコロナ禍前のレベルに回復しているが、専門家は『訪日外国人からの収入は、もう限界に来ている』と警鐘を鳴らしている」という――。

※本稿は、大橋牧人『それでも昭和なニッポン 100年の呪縛が衰退を加速する』(日経プレミアシリーズ)の一部を再編集したものです。

日本旗の前に右下がりのグラフ
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観光産業は好調のように見えるが…

1980年代、日本の好景気(最後はバブル崩壊に終わったが)に対し、米国経済は停滞気味だった。しかし、その後、IT革命の波に乗ったGAFAMなどの新興テック企業が古いタイプの大企業を軽々と追い越していった。

日本では、この間、かつての電機や自動車に取って代わるような巨大産業は生まれなかった。従って、大量の輸出で日本に外貨をもたらす力が衰えてきた。自動車会社も電機メーカーも米国や欧州などの消費国に多くの生産拠点を移転しているが、外国で稼いだ外貨は現地で再投資することが多く、日本へはあまり還流しない。それも、貿易収支の悪化に拍車を掛けている。

日本経済の停滞は、10年前くらいまでは、「失われた20年」と呼ばれたが、今では「失われた30年」だ。このままでは、「失われた40年」になるかもしれない。戦後日本の経済発展を牽引したのは、明らかに製造業、すなわちもの作りだが、それに固執するあまり、インターネットのプラットフォームなどソフト産業の育成では、欧米や韓国などに比べ、完全に後手に回った。大企業の集まりである経団連は、製鉄や重化学工業、自動車などの製造業が中心で、政府に対する要望も、大手製造業の利害に絡むものが中心だ。

「ちょっと待った。日本には、訪日外国人による観光収入があるじゃないか」という声が聞こえてくる。その金額は、2023年度で5兆2923億円(観光庁訪日外国人消費動向調査)。確かに、巨大だ。

外国人による国際観光収入から日本人の海外旅行での観光支出を差し引いた国際観光収支(旅行収支)は、4兆2295億円もの黒字だった。コロナ禍前の2019年のレベルを回復し、さらに伸びている。訪日外国人は、コロナ禍の時期に大幅に減ったが、今、急速に回復している。2024年3月には、推計308万1600人となり、単月で初めて300万人を超えて過去最多となった。お金もバンバン使っている。