「越前」福井県と「越後」新潟県の「コシ」にちなんで命名

そこで、育成を行っていた福井県の試験場が、「越前(福井県)と越後(新潟県)の共通の越の国で光り輝くお米に育ってほしい」という願いを込めて、『コシヒカリ』と命名したのです。

ここまでがコシヒカリ誕生の経緯です。

農林1号と農林22号の子供の中では、最初は劣等生とも言える立ち位置だったコシヒカリ。しかし、そこから大逆転を果たし、今や日本を代表するお米の品種となっている点がとてもドラマチックです。

コシヒカリは、ほぼ全国で栽培されています。ただし、北海道、東京都、沖縄県は、産地品種銘柄になっていないので、栽培されていたとしても「コシヒカリ」と表示することができません。

そして、一般的にその味の傾向は、大きく東西に分けることができます。近畿地方以西の西日本のコシヒカリは、しっかりした食感で粘りもやや少なめ、甘味とうま味も控えめな傾向です。

一方、東日本の日本海側と内陸部のコシヒカリは、柔らかくて粘りが強く、ふっくらとして甘味とうま味も強くある傾向です。また、東日本の太平洋側のコシヒカリは、適度な柔らかさと粘りがあり、甘味とうま味も適度にある傾向があります。

炊きあがったごはん
写真=iStock.com/kaorinne
※写真はイメージです

本場の新潟県は「コシヒカリBL」という品種を推している

コシヒカリの産地といえば、新潟県をイメージされる方が多いでしょう。実際に新潟県は、コシヒカリの生産量でも都道府県でナンバーワンとなっています。

しかし、現在の新潟県で生産されているコシヒカリは、そのほとんどが「コシヒカリBL」という品種だということは一般的にはあまり知られていないと思います。実は、新潟県のコシヒカリには、「(従来型の)コシヒカリ」と「コシヒカリBL」という複数の品種があり、その品種をどちらも『コシヒカリ』の名前で販売しているのです。このコシヒカリBLとは、何なのでしょうか。

コシヒカリBLとは、2005年産から新潟県で導入されたお米の品種です。従来のコシヒカリは、いもち病菌への感染によって葉や穂が枯れてしまう「いもち病」に弱いという点が弱点で、そのいもち病に対する抵抗性を持たせるために作られたのがコシヒカリBLです。なお「BL」とは、「Blast resistance Lines」の略で、「いもち病抵抗性系統」という意味です。

コシヒカリBLは、従来のコシヒカリにいもち病に強い遺伝子を持つ品種をかけ合わせた後、従来のコシヒカリと連続してかけ合わせる「連続戻し交配」という品種改良技術を用いて作られます。