「クセがないのに、クセになる」「えぐみがなくて料理にもドリンクにも合う」「種がほぼないから搾りやすい」。宮崎県に伝わる日本原産の幻の柑橘“へべす”に全国の飲食業界から注文が殺到している。おいしさだけでなく豊富な栄養成分や発がん抑制効果を持つ成分が含まれる。「宮崎マンゴーに続くブランドに育てたい」との行政の支援を受け大規模生産に参入した地元建設会社社長の奮闘を宮崎出身のフリーランスライターの水野さちえさんが取材した――。
「クセがないのに、クセになる」料理人絶賛の「へべす」の正体
軽く握るだけで「ブシュウッ」と果汁があふれ出てきて、口に含むと柔らかな酸味が感じられ、清涼な香りが鼻に抜ける――。
「ね? おいしいでしょう。5年間、手塩にかけた“へべす”です」。そうほほ笑むのは、宮崎県日向市の内山雅仁さん(56)だ。
へべす。
地元・日向発祥の柑橘で、今、宮崎や九州だけでなく、全国でにわかに脚光を浴びている。見た目は「かぼす」や「すだち」によく似ているが、違う種だ。有名シェフやパティシエ、飲食業界の仕入れ担当者といった目利きが我先にと“新食材”を入手しようと躍起になっている。すでにミシュラン三つ星の京料理店や大手居酒屋チェーンも納入し客に提供しており、直近では、パリで最も権威のある料理学校からも受注前提とした問い合わせを受けたという。
なぜ、急に無名の「へべす」旋風が巻き起こり、全国区に名乗りをあげようとしているのか。そしてなぜ、前出・内山さんは「内山建設」社長にもかかわらず、栽培をしているのか。
取材してみると、意外な事実とここにこぎつけるまでの苦労がわかった。