夜の街でも「負の連鎖」が起きていた

ザ・ブルーハーツの名曲『TRAIN TRAIN』の中に「弱い者たちが夕暮れ、さらに弱い者をたたく」という歌詞があるが、ハラスメントには「被害者が自分よりも弱い者を見つけて今度は加害者になる」という醜悪な構図があるのだ。

そして、実はこれは「夜の街」にも思いっきり当てはまる。

キャバクラやクラブ、ガールズバーに入り浸って、女性に説教をしたり、オラついた暴言を吐いたり、耳にタコができるほど武勇伝を語るような男は「被害者」であることが往々にして多い。

つまり、自分自身が会社や職場で「上」や「客」から説教をされたり、オラついた暴言を吐かれたり、クソつまらない武勇伝を聞かされて心に傷を負った男である。そういう男たちのほとんどは健全に酒を飲んでストレスを発散するのだが、中には「客」という優位な立場で女性に八つ当たりをする不届な輩もいる。それが「痛客」の正体だ。

夜の街を歩く2人の男性の足元
写真=iStock.com/AlexLinch
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「辛さ」や「寂しさ」を発散する男たち

先ほども申し上げたように筆者は学生時代、会員制クラブのボーイとして働いてきたこともあって、このような場にやってくる男たちの「酒の飲み方」を観察する癖がついた。

それはメディアの世界に入ってからも変わらずで、取材や打ち合わせで政治家、官僚、企業経営者、芸能人からヤクザや半グレと呼ばれるような多種多様な人たちとクラブやラウンジで飲むようになってからも、彼らがどのようにホステスやラウンジ嬢と接しているのか、というのを興味深く見ていた。

そういうことを30年続けてくると、ある興味深い「パターン」に気づいた。「軍隊のような厳しい縦社会」の中で生き馬の目を抜くような競争に明け暮れている男ほど、女性のいる店でパワハラ・セクハラ的な言動をしがち、なのだ。

政治家からゴリゴリに詰められる高級官僚、出世争いに奔走しているバンカー、上納金を求められるヤクザなど、厳しいピラミッド社会を駆けあがろうとしている者ほど、接客する女性のちょっとしたミスを荒っぽく注意をしたり、常識がないことをネチネチと説教をしたり、人格否定的な暴言を吐く確率が高い。

だから、歌舞伎役者の香川照之さんが銀座の高級クラブで性加害をおこなった際も正直そんなに驚かなかった。梨園のように厳しい縦社会の中で、46歳から歌舞伎役者に挑戦し「澤瀉屋」という名跡を背負うこととなった香川さんのプレッシャーは凄まじいものがあったはずだ。その「辛さ」や「寂しさ」を「夜の街」で発散をしていたのではないか。