完全栄養食の活用が有効なケース

しかし、以下のように完全栄養食の特徴をきちんと理解した上で活用すれば、メリットを享受することができます。

・時間がなくて朝食をとる時間がない、朝は食欲があまりないので何も口にしない
→準備時間も胃腸への負担も少ないドリンクやスープタイプの完全栄養食を活用する

何も食べないより何かを口にしたほうが断然望ましく、何かを口にするのなら栄養バランスのとれたもののほうが望ましく、完全栄養食のデメリットを気にする必要がない。

・レトルトカレーやカップ麺などのインスタント食品だけで食事を済ませてしまう
→完全栄養食のインスタント食品や冷凍食品に置き換える

忙しかったり体調が悪かったりして買い物や調理が困難な場合、インスタント食品や冷凍食品を活用するのは問題なし。でも、できれば栄養バランスのとれた完全栄養食のほうがよい。

・震災などの災害時に備えて食料品を備蓄する
→備蓄食料に完全栄養食を加える

あまり調理ができず、栄養バランスが取りづらい災害時の食事として完全栄養食は最適。普段からローリングストック(※1)しておくのがおすすめ。

・やせるために食事の量を減らす
→低エネルギーの完全栄養食に置き換える

減量のために食事量を少なくすると微量栄養素が不足しやすいが、完全栄養食を使えば必要な栄養を確保しつつ体重を落とすことが可能になる。ただし、完全栄養食は水分量が少ないものが多いので、飲み物で水を補う必要がある。

※1 「ローリングストック」とは、普段から食品を少し多めに買い置きしておき、賞味期限を考えて古いものから消費し、消費した分をまた買い足すことで、常に一定量の食品が家庭で備蓄されている状態を保つ方法。

備蓄食料
写真=iStock.com/years
※写真はイメージです

健康上のリスクが予想されるケース

一方、完全栄養食のリスクが大きくなるケースもあります。それは以下の通りです。

・成長期の子どもに栄養バランスのとれた食事として提供する

子どもの食事は栄養の摂取だけでなく、食文化や食材による味の違いなどを体験する機会でもある。また食べ物により異なる食感や刺激は、咀嚼機能や味覚を形成するために必要。そのため完全栄養食ばかりだと、子どもの成長を損なう恐れがある。ただし、たまになら問題なし。

・飲み物に溶かす粉末タイプやドリンクタイプの完全栄養食を多用する

液体タイプの食事は、食物繊維が配合されているものでも消化吸収が早く、糖尿病の場合は食後高血糖を起こす恐れがある。また、消化管の通過も早いため高浸透圧性の下痢が生じることも。下痢が生じない場合でも、便の固形量が少なくなり便秘になることもあります。

・過体重でない人が減量目的で完全栄養食を利用する

いくら完全栄養食に含まれる栄養のバランスがよくても、エネルギー量が低く、消費エネルギーを下回ると、体の組織が分解され、血糖や体温維持のために使われることがあります。また、完全栄養食には十分なタンパク質が含まれていますが、エネルギー不足に陥ると、脂肪だけでなく筋肉が分解されることも。筋肉の分解は、基礎代謝の低下や体の抵抗力を下げることにも繋がります。万能なダイエット食と過信するのは禁物です。

以上のように、現時点において完全栄養食だけで全ての食事をまかなうことは、管理栄養士として推奨できません。そもそも毎日必ず栄養バランスのとれた食事だけをとるのは難しいことですから、そうでなくても問題ありません。数日〜1週間程度で大体のバランスをとりましょう。完全栄養食は不足しがちな栄養を手軽に満たせる便利な食品の一つとして、たまに活用するのがおすすめです。

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