中高年になると、生活習慣病の予防や治療のために肉や魚の摂取量を減らし、野菜中心の食生活に変える人も少なくない。しかし、管理栄養士の成田崇信さんは「むしろ40代後半からの中高年は、たんぱく質が不足しがち。筋肉量が減って歩行が困難にならないよう、たんぱく質をしっかり摂って筋肉量の維持をすることが重要だ」という――。
老いた男性と共に歩く若い女性
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中高年は筋肉量に気をつけたい

中高年への食事のアドバイスといえば、生活習慣病の予防や治療のためのものがメイン。そのため、「LDLコレステロールを下げるために加工肉は控えましょう」とか「がん予防のために赤身肉の食べ過ぎは要注意」などと言われがちです。すると、肉類はよくないもののように思えてしまいますね。

特に糖尿病や高血圧などの持病がある人に多いのですが、栄養相談で「健康のために肉類を食べないようにして、野菜や果物をたくさん食べるようにしています」という高齢の方に出会うこともあります。また、体重の増加や肥満、メタボリック症候群などが気になって、どちらかというと肉を食べることに罪悪感を持つ人も多いのではないでしょうか。

確かに野菜や果物が不足しないようにしたり、病気や肥満などの理由があれば過度のエネルギー(カロリー)や脂質を摂取しないようにすることは大切です。しかし、肉類を食べないというのは極端すぎます。

じつは中高年こそ、体の筋肉を維持するために、肉などからたんぱく質をしっかり摂ったほうがいいのです。ですから、栄養相談で肉を食べないと話される方には、たんぱく質の大切さについてお話しすることにしています。

サルコペニア予防に「たんぱく質」

そもそも中高年になると、誰しも加齢によって自然と骨格筋の量は減少していくものです。しかし、ある程度以上、筋肉量が低下すると身体機能が低下する「サルコペニア」と呼ばれる状態になってしまいます。サルコペニアが進行すると、立ち上がりや歩行に支障をきたすようになり、より運動量が減少し、さらなる筋力低下を招きかねません。

実際の診療において、サルコペニアは「骨格筋量」、「握力」、歩行速度などの「身体機能」が一定以上低下しているかどうかを評価して診断されます。サルコペニアの特徴は、体を支えたり、歩行によく使われる「抗重力筋」と呼ばれる筋群の低下が進みやすいこと。そのため、立ち上がりや歩行に支障をきたし、進行すると日常の生活にも支障をきたし、介護が必要な状態になることもあります。

サルコペニアといえば筋肉量の低下、筋肉といえばたんぱく質……つまりサルコペニアの改善に最も重要な栄養素はたんぱく質です。ところが、この高齢者の健康に欠かせない栄養素であるたんぱく質が、高齢者では特に不足しやすいのです。これはなぜでしょうか。