高齢者でも運動で筋肉量は増えるのか

さて、高齢者でも一度落ちてしまった筋肉を取り戻すことは可能なのでしょうか。もちろん、不可能ではありません。年齢による生理的な筋力低下は避けられませんが、適切な筋力トレーニングと栄養療法の組み合わせで改善は十分に期待できます。

ただし、一度減少してしまった筋肉を取り戻すのは維持することよりも難しいため、筋肉量の減少が進む40代後半くらいから食事や運動に対する意識改革を進めたほうがいいでしょう。

栄養と運動は車の両輪であり、健康的な生活を送るため、どちらも欠かすことができないもの。高齢になって運動したり体を動かしたりする機会が少なくなると、食事は十分でも筋肉量が減少してしまいます。そうして筋肉量の減少が続くと、咀嚼や嚥下に必要な筋力までもが低下し、さらに栄養摂取にも支障をきたします。

栄養摂取が不十分な状態で運動をしても、筋肉のもとになる栄養が足りず、運動の効果がでないばかりか、却って筋肉の分解を進行させてしまう可能性さえあります。つまり、悪循環に陥ってしまうのです。

屋内でヨガのポーズ
写真=iStock.com/koumaru
※写真はイメージです

運動の前に食事を整えることが大切

こうしたことを避けるには、運動する前にしっかりと食事を整えることが重要です。

筋量アップが期待できるレベルの運動では、当然エネルギー消費量も上がりますので、摂取エネルギーが不足すると、筋肉がアミノ酸に分解され、血糖維持のために使われてしまいます。そのため、たんぱく質だけでなく十分なエネルギー確保も必要です。

そして、たんぱく質も量だけでなく、骨格筋の原料になる必須アミノ酸が不足してはいけません。中でもロイシンなどの分岐鎖アミノ酸(以下BCAA)は骨格筋の材料になりやすいことがわかっていて、筋力を取り戻すリハビリ期にはBCAAを充足させることが重要です。BCAAは動物性食品では筋肉部分に多く含まれますので、食欲の低下している高齢者では量を食べるためにも、脂身の少ない赤身肉を選ぶのがよいでしょう。

また、食事だけで十分に摂ることが難しい場合も多いので、BCAAを配合した栄養補助食品などを活用するのも選択肢の一つです。プロテインパウダーやプロテイン飲料にはBCAAを配合したものが多いのですが、一つの栄養素だけに注目すると栄養バランスを崩す恐れもありますから、一度にあまり食べられなくなってきた人にはバランスタイプの総合栄養食の活用がおすすめです。

〈参考文献・資料〉
文部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会報告「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年
文部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会報告「日本食品標準成分表2020年版(八訂)アミノ酸成分表編
Szu-Yun Wu, Nai-Hua Yeh, et al. Adequate protein intake in older adults in the context of frailty: cross-sectional results of the Nutrition and Health Survey in Taiwan 2014-2017. Am J Clin Nutr. 2021 Aug 2;114(2):649-660.

【関連記事】
【第1回】「腐敗臭と糸引き=食中毒」ではない…管理栄養士「見た目と臭いではわからない食中毒の本当の怖さ」 夏は食中毒のハイシーズンではなかった
だからボケずヨボヨボにならず天寿をまっとうした…103歳が毎日食べたミネラルをしっかりとれる「おやつの名前」
運動不足でも炭水化物は食べていい…ハーバード大の研究で判明「ご飯は1日何杯までOKか」の最終結論
「マラソンが趣味」なのに心筋梗塞で命の危機…「悪玉アミノ酸」に侵された40代男性が毎日食べていたもの
実は「スモークサーモン3切れ」より塩分が多い…医学博士が教える「塩分を多く含むスイーツ」の名前