幻に終わった戦艦同士の日米対決

【半藤】スプレイグさん、「ミスター・ハンドウ、これはすごい見物だった」と言うじゃありませんか。着弾の色が違うのですって。長門ながとは赤、大和は青といった具合で、まるでテクニカラーの映画を見ているようだったと言っていました。砲弾は、列車が頭の上を通るみたいにブワワーッ、ドーンと轟音がして落ちたと。

このときアメリカの空母は商船を改造した護送空母ですから装甲がほとんどない。もし命中していたら空母はみんなイチコロだったであろう、とも言っていましたね。しかし大和の砲撃は一発も当たらなかった。かろうじて米空母に当たったのは、巡洋艦の二〇センチ砲弾だけだったそうです。

【保阪】いずれにしても、草鹿龍之介のお涙ちょうだい風の語り草では、どうもこれ、壮大な……。

【半藤】平家物語』になってしまいます。

【保阪】滅びるつもりなら三千人も乗せていくことはなかったではないか、とつい言いたくもなってしまう。

半藤一利、保阪正康『失敗の本質 日本海軍と昭和史』(毎日文庫)
半藤一利、保阪正康『失敗の本質 日本海軍と昭和史』(毎日文庫)

【半藤】アメリカ側は大和が出撃したことはすぐ知るわけですね、潜水艦が見つけましたから。司令長官のマーク・ミッチャー中将が全軍突撃を命じると、護衛戦艦部隊の司令長官が、「せめて最後の合戦ぐらい戦艦同士で撃ち合いたい。頼むからやらせてくれ」と申し出たそうです。アメリカにもそういう大艦巨砲主義者がいたんだね(笑)。アイオワやミズーリといった戦艦部隊が九州坊ノ岬沖に向かうのですが、飛行機部隊が待ちきれずに攻撃してしまったので、間に合わなかった。しかし撃ち合いたかったでしょうね。

【保阪】そうなったら大和の最期としては、もう少しおさまりがよかったようにも思います。

【半藤】もしかしたら「敵戦艦二隻撃沈!」なんていうこともあったかもわかりませんな。

【保阪】リングに上がって殴り合うようなものですからね、できればそういう終わり方をしてほしかったと思った海軍関係者は多かったと思います。

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