国際競争力を高めるJC08モードによって燃費測定が困難となった

もし、これが本当であれば、国土交通省や経済産業省が燃費を意識してJC08モードにこだわったことが、ひるがえり両社の燃費不正を生んでしまったのではないかと思うのです。仮にわが国の消費者を意識していなかったとしても、JC08モードが設定されていたことで両社の燃費測定を困難なものにしていたことは事実ですから、両省はそのことについて何かしら説明を行ってほしいとも思います。

ただし、両省が国際的な視点からJC08モードを設定していたとすれば、私個人はそれも「正しい」判断だったのではないかと考えています。

というのは、もちろん自動車メーカーが各社競ってより良い燃費を求めていくだけではなく、わが国の国際競争力として(独自の)燃費基準を置くこと自体は、少なくともこの時点では容認されていたからです。

それはWLTPへの切り替えに対する裏返しで、各国・地域ごとに異なって燃費基準を設定することは日本に限らず行っていたことですから、日本もそれに追随することは何ら問題ないと思うためです。

しかし、その延長線上に測定困難な惰行法が現場に求められ、かつ現場では対応に苦慮した結果、現在の日本が参照しているような国際的な燃費基準を両社がやむを得ずに使用していたとすれば、それは不運以外のなにものでもないように思います。

結果的に、国土交通省や経済産業省がわが国の消費者に対して諸外国よりも燃費を良く見せることが、かえって国内の自動車メーカーの燃費不正問題を生み出し、国内で開発・製造される自動車の国際的な評判を落としかねない事態になった、ということなのです。

燃費の不正表示がされた三菱自動車のカタログ、2017年1月
写真=共同通信社
燃費の不正表示がされた三菱自動車のカタログ、2017年1月

産業を守るという「正しさ」を追求するがゆえに不正が起きた

ここまでの説明でお分かりかもしれませんが、少なくとも燃費不正とは、三菱自動車などが単に惰行法を使用していなかった、というものではありません。それらをまとめると、次のようになります。

1)JC08モードにおける惰行法は日本独自の燃費基準であり、その背後には「わが国の消費者に対して諸外国よりも燃費を良く見せること」というねらいがあった。
2)しかし、惰行法は少なくとも三菱自動車とスズキにおいてとても困難な測定方法であった。
3)そのため、三菱自動車は米国向けの高速惰行法を使用しており、スズキは欧州向けの装置毎等の積上げを使用していた。
4)しかし、結果的に(JC08モードという燃費基準の是非は問われることなく)両社の測定方法にばかり目が行き、燃費不正という問題が顕在化した。
5)その後、JC08モードはWLTPモード(あるいは、WLTCモード)への変更が行われた。