※本稿は、中原翔『組織不正はいつも正しい』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
組織では「単一的な正しさ」によって間違いが起きてしまう
「正しさ」を追求することによって組織的雪崩が引き起こされる現象について考えたとき、共通するのは、「正しさ」が単一的=固定的なものとして考えられ、それによってその「正しさ」を疑うことができない状況です。組織において「正しさ」が絶対的なものであるほど、なかなか疑うことができないものです。
疑うことができないとは言い過ぎかもしれません。しかし、自動車メーカーやビッグモーターなど、数々の企業不正の実例のように、こうした「正しさ」はある種絶対的なものとして考えられることも多く、そうした「正しさ」が組織的雪崩を引き起こす原因につながりかねないのです。
本来、どのような「正しさ」であっても、時代や場所が変わることによって変化していくはずです。あるいは、組織における「正しさ」であれば、自分たちの組織であれば疑われることがないにしても、他の組織であれば疑われたり、批判されたりすることもしばしばあるかと思います。ですから、こうした「正しさ」とは決して絶対的なものではなく、むしろ相対的なものなのです。
複数の人による「流動的な正しさ」にシフトチェンジすべき
企業倫理規範なども、組織において役員や社員がどう行動すべきかの見本を示すという意味で「正しさ」の象徴と言えるかと思います。しかし、時代や場所が変わっているにもかかわらず、この「正しさ」が変わらないものであれば、役員や社員は間違った行動を取ってしまうに違いありません。それは個人の行動が悪いのではなく、「正しさ」自体が時代や場所に照らして「危うさ」を抱えてしまっているからです。
優れた企業であれば、企業倫理規範も毎年見直して、どこを変えれば時代や場所に合った行動を役員や社員が取ることができるかをつねに考えていると思います。企業倫理規範だから「変わらないもの」なのではなく、つねに「変わるもの」であると意識しなければならないと言えます。
このような「正しさ」が単一的=固定的なものであったために生じたのが、ビッグモー夕ー社の不正請求事件です。この不正請求事件では、ビッグモーターの各工場において顧客から修理依頼があった車に対して、工場の従業員らが故意に自動車を傷つけることによって保険金を水増し請求していたことが問題となっていました。