東京藝大では何を教えているのだろうか。アート・アンド・ロジック社長の増村岳史さんは「入学後はひたすら自己表現を探求する。東京藝大美術学部の必修科目のうち7割が実技科目だ」という――。
※本稿は、増村岳史『東京藝大美術学部 究極の思考』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
「自己表現の探求」をひたすらしていく
東京藝大の美術学部と聞いて、皆さんがすぐ頭に思い浮かべるのは、油絵科(油画専攻)ではないでしょうか?
工芸科や彫刻科などは、入学してから技術や技法を学んでいきます。
たとえば工芸科であれば、彫金・鍛金・鋳金・漆芸・陶芸・染織など工芸のさまざまなジャンルをひととおり学んだのちに、自身の興味や意思に基づいて、専攻を先生方との面談も含めて決めていきます。
また、彫刻科も然りで、塑造・石彫・木彫・金属など彫刻のさまざまなジャンルをひととおり学んで専攻を決めていきます。
しかしながら油画専攻は、学生たちが入学をした時点で、油絵を描く技術や技法をひととおり身につけています。
そのため、やや大げさな表現かもしれませんが、「自己表現の探求」をひたすらしていくのです。
入学後に求められる「上手な絵を描くことからの脱却」
10年ほど前に藝大を卒業され、現在アーティストとして活躍している(助手経験のある)卒業生の方から聞いたのですが、入学後の最初の実技課題は「半年間をかけて自分の絵画表現をしなさい」だったそうです。
この方は、課題の意図を振り返って「半年かけて毒抜きをすることにあったのでは?」とおっしゃっていました。
受験のために身につけた、いわゆる「上手な絵」を描くことから脱却しなさいという強いメッセージが込められていたのでしょう。