お茶や武道などの世界で言われる「守破離」

半年間にわたる課題は、一部の関係者の間では、別名“放牧”とも呼ばれていたそうです。

お茶や武道などの世界で言われる「守破離」という言葉があります。

この「自分の絵画表現をしなさい」という課題を聞いて、私はこの「破」を連想しました。

お茶や武道などの世界で言われる「守破離」
写真=iStock.com/halbergman
お茶や武道などの世界で言われる「守破離」(※写真はイメージです)

この守破離、ご存じの方も多いかもしれませんが、まずは師匠から教わった型を「守り」、型の完成後に、それまで守ってきた型を「破る」ことで自身のオリジナリティを発見し、さらに鍛錬に鍛錬を重ねて探求することで、最終的には師匠の型、そして自分自身が作り出した型からも「離れ」て自己の表現を完成でき、自在の境地に達するということを表した言葉です。

受験勉強で身につけたのは「守」であるので、これからは「破」に向かうことを促す。つまり「君たちは基礎を十分に学んでいるのだから、これからは自分たちの表現を追求しなさい」という大学側からのメッセージと考えられるでしょう。

今までの知識や経験をあえてリセットする

また、「合格した人たちは皆、絵を描かせたら上手いので、いかに『上手く描けてしまうこと』から脱却するかが重要だ」と、複数人の卒業生から聞いたことがあります。

これは、「自身で身につけた知識や技術を手放さなければ、次なる次元に進めない」と言い換えられるかもしれません。

私たちは幼少期から常に「知識の蓄積」を要求され、成長という言葉の下に、どんどんと頭の中のハードディスクにデータを増やすように期待されます。

ハードディスクのデータを増やすことも、もちろん大切です。

しかし、「半年間をかけて自分の絵画表現をしなさい」とは、ハードディスクに溜まった今までの知識や経験を、あえてリセットをすること。そうすることで、新しい考えを吸収できるのです。

この考え方は、今こそ私たちにとって重要なことではないでしょうか?