実技科目の割合が7割以上

読者の皆さんのうち、社会人の方の多くは、一般の大学などを卒業されたのではないでしょうか?

大学を卒業するためには、定められた単位を取得しなければなりません。法令で決められている単位は、4年制の課程において124単位以上が求められます。

私は大学を卒業したのがはるか彼方の昔なので、明確な記憶がないのですが、おおよそ1つの授業の単位が2単位から4単位ですので、合計55〜60くらいの講義・授業を受け、授業ごとに前期と後期に試験を受けるのが一般的でしょう。

見事パスをすると単位が取得でき、その単位の積み重ねによって進級し、規定以上の単位の取得により卒業となります。

他方、美術系大学の多くは、実技単位がメインとなります。その中でも東京藝大の場合は、単位の中に占める必修の実技科目の割合が7割以上となっています。

ほかの美術系大学の必修の実技科目の割合は、大学によってさまざまですが、おおよそ4割から6割です(ほかの美術系大学も選択科目としての実技科目は用意されていますので、本人の意思次第では実技にシフトすることもできます)。

つまり、藝大では、4年間の学生生活をほぼ制作に費やします。

「それは自分で考えるしかないよ」

油画専攻以外の学科、たとえば工芸科や彫刻科では、ひととおりの知識や技術を入学後に学ぶことは先ほどお伝えしました。

一定の技術を身につけたと認められて入学した油画専攻の学生には、ほかの学科に比べると、先生たちが細かく技術や技法を教えることはあまりありません。

質問やアドバイスを求められても「それは自分で考えるしかないよ」というスタンスの先生が多いといわれます。つまり、常に自主性を重んじるのです。

学期・学年ごとに、作品を提出すると、必ず「講評会」が開催されます。

増村岳史『東京藝大美術学部 究極の思考』(クロスメディア・パブリッシング)
増村岳史『東京藝大美術学部 究極の思考』(クロスメディア・パブリッシング)

講評会とは、学生が制作した作品に対して、自ら制作意図などの解説を行い、担当の先生が講評する場です。この場には、同じ学科のほかの学生たちも参加し、作品に対しての批評も行います。

つまり、年間の中で数回、学生たちは自身の作品が批評に晒されるのです。

一般の大学のように、授業ごとに課題を出され、次の授業までに課題を提出する、いわば、PDCA(プラン・ドゥ・チェック・アクション)サイクルを回転させるような形式のものはほとんどありません。

ましてや、受験のときなどのように2日間で仕上げなければならないこともありません。数カ月、半年間の単位で、卒業するまで作品をひたすら制作し続けるのです。

そして、4年時に最後の作品制作である卒業制作をもって学部を卒業します。

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