人びとはどのサービスをどの程度利用し、その傾向は年々どのように推移しているのか――。プレジデントオンライン編集部がビデオリサーチ社と共同でお届け する本連載。首都圏の消費者を「お金持ち」層(マル金、年収1000万円以上)、「中流」層(マル中、年収500万円以上から1000万円未満)、「庶民」層(マル庶、年収500万円未満)という3ゾーンに区切り、生活動態の分析を試みている。
ビデオリサーチ社が30年以上続けているACR生活調査には、実に様々なデータがある。あえて的を絞ったマーケティングを目的とせずとも、生活者の意識の変化を知る上でも実に興味深い内容だ。
今回はその中から、男性のみだしなみ意識に関する調査を取り上げてみようと思う。
日本の男性はここ10年でぐっとおしゃれになった感がある。ファッションに関して言えば、デフレ傾向は国民の水準を高いものにした。
言わずとしれた、ファストファッションの台頭がそれに拍車をかけていると言っていいだろう。
そこでまず、ファストファッションの雄、ユニクロの年収別利用度を見てみよう。
ユニクロの利用率は各層を問わず、他のファストファッションブランドに比べ、50%前後と圧倒的に利用率が高い。意外にも、1000万円以上の所得があるマル金男性層でもユニクロが利用度はダントツに高い。2010年には55%にも迫る勢いだ。マル金はユニクロが好きなのか。
続いて、しまむら、H&Mのグラフを見てみよう。
郊外を中心に展開を始めたしまむらは、圧倒的にマル庶男性層で人気である。利用率は横ばいであるが、高年収層での利用率は低めだ。
次に外資のファストファッションであるH&Mの利用率を見てみよう。
こちらは2010年からの調査であるが、店舗数の伸びからか、伸び幅が大きいことが注目される。
調査員の紅一点、I調査員は言う。
「所得層を問わず2011年から2012年に大きく伸びているのは何か理由がありそう。特にマル金男性層での利用率が2年で2倍になっていますね」
我々は専門家に話を聴くべく、ファッション評論家の林信朗氏を訪ねた。
林氏はあの老舗男性ファッション誌「MEN'S CLUB」編集長などを経て、現場で男性ファッションの歴史と現在を知る有数の評論家である。
ユニクロ利用率のグラフを見せると、林氏は一刀両断に、こう分析した。
「要するに、ユニクロはファッションではないんですよ」
は? ……驚く調査員たちに、林氏はこう説明した。
「ユニクロは基礎生活材なんです。つまり、ヒートテックやウルトラライトダウンのような防寒着であったり、下着であったりするわけです。特に高所得者層はそれらを人に見せたり自分で味わったりする『ファッション』とは捉えていないと思うんです」
なるほど、目から鱗なコメントである。つまり日用品に近くなっているから、利用率が上がるというわけだ。
対して、しまむらや、H&Mはどうなのか。
「しまむらやH&Mは今瞬間的に流行のファッションを安く買う、という感覚ですよね。だからしまむらは特に低所得者層に受ける。彼らはしまむらをファッションとして捉えていると思います。でもH&Mはどうでしょう。高所得者層がそこへ行くのは娘や妻といった家族での買い物もかなり含まれているような気がしますね」
林氏は高所得者層のあくなき消費意欲も指摘した。
「買い物が好きな人、というのがいますよね。高所得者層は可処分所得が多いわけですから、当然、買い物に使えるお金もあるわけで。特に所帯持ちの男性はほとんどが『お小遣い』で生きているわけですから、自由裁量でためしてみるのにH&Mは面白い、というのもあるのかもしれません」
次回は林さんに、日本男性のファッションに対する意識が昨今激変しているという話を聴いてみよう。
※ビデオリサーチ社が約30年に渡って実施している、生活者の媒体接触状況や消費購買状況に関する調査「ACR」(http://www.videor.co.jp/service/media/acr/)や「MCR」の調査結果を元に同社と編集部が共同で分析。同調査は一般人の生活全般に関する様々な意識調査であり、調査対象者は約8700人、調査項目数は20000以上にも及ぶ。
上智大学外国語学部比較文化学科卒業後、“mc Sister”、“ヴァンサンカン”、“MEN'S CLUB”、“Dorso”、“Gentry”などの男女ファッション誌の編集長を務め、フリーに。クリエイティブ・エージェンシー“TCOB”に所属し、プリント、web、モバイルのエディトリアルを担当。新聞、雑誌などへエッセイも寄稿。