4番目と5番目は、それぞれ関与させることと権限委譲することです。目標を策定するプロセスに部下を参画させて、意見を聞きながら、落としどころに持っていきます。そして、目標が定まったら目いっぱい任せる。こうすることで、部下は当事者意識を発揮して、目標完遂へ全力で取り組んでくれるでしょう。経営学の大家であるピーター・F・ドラッカーは「人を育てるための最も効果的な方法は、任せることである」といっているぐらいです。

ただし、任せっぱなしはいけない。そこで6番目の責任が求められるわけです。ところで、責任には実行責任と結果責任の2つがあります。実行責任は部下100%ですが、結果責任は部下も指示した上司も100%です。古い表現ですが「骨は俺が拾ってやる」という心意気でしょう。

最後の7番目は、これまでの6つのポイントを実行する際にもいえることですが、感情を抑制すること。自分をコントロールできずに、部下を説得し、納得させることはできません。

江戸時代の儒学者、佐藤一斎の『言志四録』に「春風を以て人に接し、秋霜を以て自ら粛む」とあります。他人に対しては暖かい春の風のように接し、自分自身は秋の霜のように厳しくつつしめという意味です。世の中には逆の人も少なくありませんが、まず自分を律してこそ周囲からの尊敬も信頼も得られます。

器を大きくするには教養も大事です。私も半世紀近いビジネス人生でヘルスケアのグローバル企業であるジョンソン・エンド・ジョンソンの社長などを務め、多くのリーダーに会いました。「この人は素晴らしいな」と思わせる人物には共通する特徴がありました。

それは一口でいえば教養です。文学や美術、歴史の造詣が深く、カクテルパーティーなどでは、ギリシャ神話やシェークスピアが、しばしば話題に上ります。そうした教養の裾野の広さに、私は彼らの懐の深さを感じました。ビジネスに役立つ経営学だけでなく、こうしたいわば“無用の学”があるわけですが、そのバランスが取れているのも器の大きな人としての欠かせない条件なのです。

国際ビジネスブレイン社長 新 将命 
1936年、東京都生まれ。早稲田大学文学部卒。シェル石油、日本コカ・コーラ、ジョンソン・エンド・ジョンソン、フィリップスなど6社で勤務。3社で社長、1社で副社長を経験。近著に『伝説の外資トップが説く働き方の教科書』がある。
(構成=岡村繁雄)
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