私は「部下に尊敬されている」と思ったことはありません。この企画も一度はお断りしました。ただ、私たちのやり方を紹介することが、皆さんの役に立つのであれば、と思ってお引き受けしました。
私の経験からいえることは、特定の個人が尊敬を集める組織よりも、スタッフ全員が理念や活動を理解し、志を共有している組織のほうが強いということです。
大学生だった私が友人とふたりで高校生のキャリア教育を支援するNPO「カタリバ」を立ち上げたのは、12年前。私自身がそうだったのですが、学習できる環境は整っているのに、将来について考える機会が少ないためか、成長しようという意欲に乏しい高校生が多いと感じていました。
カタリバでは、高校の授業に大学生や社会人のボランティアを派遣しています。少し年上の先輩と将来について真剣に語り合う体験は、大きな刺激になり、社会に目を向けるきっかけになるんです。
設立当初は、何をやるにも手探りの状態でした。スタッフの数も少なく、全員で話し合いを繰り返しながら、カタリバというNPOが何をすべきかを考え、共有していくことができました。
けれども、現在では約4500人のボランティア登録を集めるまでになりました。有給職員は47人。組織が大きくなり、さまざまな機能を「仕組化」していく過程で、“語り場”で働く職員たちの間で、話し合う機会が減っていることに気付きました。
職員のなかには、教育を学んできた者もいれば、一般企業から転職してきた人もいます。職員の背景が多様だからこそ、「カタリバのミッションとは何か」を常に考え、話し合っていかないとサービスのクオリティが落ちてしまう。私たちの活動は自己満足だけでは続きません。それだけは避けたいと思いました。
そこで、まず私と7人の幹部スタッフの間で、徹底的に話し合う時間をつくりました。その内容を踏まえて、幹部スタッフが職員たちとミーティングをし、さらに職員たちがボランティアのスタッフに伝えていく……。そんな地道な対話を重ねることで、全員にカタリバのミッションを理解してもらえる環境を整えました。