大手外資系メーカー部長 
田中光男(仮名) 

有名私立大学を卒業後、外資系企業に入社。4年間の米国本社勤務などを経て、ベンチャー企業の立ち上げに参画。その後、現在の外資系企業に転職。夜間に経営大学院へ通い、自費でMBAを取得するなど、キャリアアップのための勉強も続けている。

大手外資系企業の日本法人に勤務する田中光男さん(仮名、47歳)は部長に昇格して3年が過ぎ、役員になれるかどうかの分岐点が近づいている。

「役員になれるものならぜひなって、大きな組織のマネジメントに挑戦したいですね。担当が社内で傍流の事業なので、それにはもっと事業規模を拡大していかねばなりません」

田中さんは新卒で現在とは別の外資系企業に入社し、主に商品企画を担当した。この間に4年間の米国本社勤務を経験し、英語が堪能である。

その後、ベンチャー企業の立ち上げに参画。田中さんが企画立案から営業・マーケティングまで担当した新製品は、業界団体の表彰を受ける栄誉にも輝いた。取引先であった現在の会社から誘いを受け、転職したのは10年ほど前のことである。

現職でも田中さんは多くの実績を残してきた。たとえば日本市場を分析し、もともとの製品にアレンジを施した企画製品は、業界では知らない人がいないほどのヒットになっている。

田中さんにどんな仕事を心がけてきたのかを尋ねてみた。

「まだ誰もやっていない仕事、周囲から『あれは田中がやった』と言われる仕事を意識してつくってきました。それには半年、1年先を見据えて仕事をすることですね。ただ、出世はあくまで結果。出世を目的にすると政治的な動きをしたり、おかしなことになってしまいますから」

社内本流と言われる事業部門を歩み、トップの子飼いとして経営企画部や人事部で実績を積む――最近はそんな典型的出世パターンに変化が見られるようだ。組織リーダーの育成・教育を手がける株式会社グロービスの高橋亨マネージング・ディレクターは「新しい出世パターンがつくられつつある」と解説する。

「グローバル化を推進し、あるいは事業変革を志向している会社では、従来とは異なる出世のあり方を模索しているように感じます。40代後半で経営層として能力を発揮する人には、大きく3つのパターンがあります。1つ目は海外で事業を立ち上げたような経験の持ち主。2つ目は社内では傍流の部門で、予算や人材が足りない中で自ら工夫をして実績を残してきた人。そして子会社を立ち上げ、あるいはずっと子会社で経営を行ってきた人が実績を挙げ、本社にかえり咲くパターンです」

これらの類型からは様々な制約や困難な状況の中、自ら考え抜いて意思決定と実行を積み重ね、成果を挙げた経験が重視されている傾向が読み取れる。