PJマネジャー経験が買われ子会社社長に

ソフトバンクの子会社で、購買支出削減支援サービスなどを手がけるディーコープ社長の谷口健太郎さんは、まさに新しい出世パターンを歩んでいる人物である。1961年生まれの谷口さんはもともと大手商社に勤務し、トルコのメディカル事業を担当していた。

ディーコープ社長 
谷口健太郎 

早稲田大学理工学部大学院修了後、日商岩井(現・双日)入社。トルコの大学病院建設事業に携わり、海外50以上のメーカーとの交渉、契約、調達などを担当。2000年、ソフトバンクへ転職。03年に同社の100%子会社ディーコープの執行役員に。06年より現職。

「大学病院建設プロジェクトの入札に参加し、ローンのシンジケートを組み、MRIやCTから灰皿まで設備一式を用意し、24カ月で建設するという仕事でした。しかも受注した後も他の入札が行われるので、プロジェクトマネジャーを務めながらトルコ各地を転々とし、応札していました」

誘いを受けてソフトバンクに転職したのは2000年。常に新しいプロジェクトを一から立ち上げ、しかもそれぞれ異なる案件をアレンジしてきた経験と能力が買われたのである。

新規事業の立ち上げ経験などを経て、ディーコープの執行役員に就任したのが03年。そして06年に社長に就任した。ソフトバンクの孫正義社長は、プレジデント11年3月7日号で「見込みのある人には、どんどんグループ会社の経営を任せていく」と発言しているから、順調な出世と言えよう。

その後、リーマンショックの直撃を受けながらも谷口さんはトップとして業績を伸長させてきたが、結果には満足していないという。

「期待されているのは10倍、100倍、1000倍という成長ですから、業績が伸びたといっても今の数字では恥ずかしいぐらい。孫さんからは『いつまで同じことをやっているんだ。どうビジネスモデルを進化させるのか、脳みそがちぎれるくらい考えろ』と言われています」

ディーコープでは企業の一般管理費にフォーカスし、リバースオークション(買い手が売り手を選定する入札)の手法を活用してコスト削減を支援している。これをいかに発展させるかが谷口さんの課題である。

出世についての考え方を尋ねると、「ゴールではなく志を実現するための手段」という。

「商社にいたときも出世にはあまり関心がなく、それより自分はどんな仕事をやるべきだろうと考えていました。そしてディーコープを任せると言われ、経営者としての責任を負ったとき、自分は何のために生まれてきたのかと考えるようになりました。その答えは、青臭いかもしれませんが、私は『周囲の人を幸せにしたい』と本気で考えています。自分の志を遂げるには影響力が必要です。その手段として私は社長をやっているのだと思っています」

谷口さんは社長就任時にもう1つ、思い至ったことがある。時間を消費することは、命、人生を消費すること。「だから1秒もムダにしたくない」。経営責任を負うということは、改めて自分のあり方を問い直し、腹を決める機会になるようである。