早稲田大学商学学術院長兼商学部長 恩蔵直人(おんぞう・なおと)●1959年、神奈川県生まれ。82年早稲田大学商学部卒。87早稲田大学商学部助手、89年同専任講師などを経て、96年教授に就任。2008年より現職。エステーの社外取締役も務める。近著に『コモディティ化市場のマーケティング論理』『R3コミュニケーション』(共著)、『コトラーのマーケティング3.0』(監訳)など。 

3代目は燃費と内装で遅れを取った

欧州危機や世界的な景気減速に苦しむ自動車業界。だが富士重工業の業績は絶好調だ。10月30日に発表された2013年3月期の中間決算では上期としては過去最高となる8980億円を売り上げた。これは同社が最大のターゲットとする北米市場において、昨今投入した新型のインプレッサ、レガシィ、BRZ(トヨタへも86としてOEM供給)といった車種がことごとくヒットしていることが大きく貢献している。00年代の長い停滞期をくぐり抜けヒットを生み出した背景には、どういったマーケティング戦略があり、企画・開発体制の変化があったのか。早稲田大学商学学術院の恩蔵直人教授が話を聞いた。

1人気を吐く富士重工業
http://toyokeizai.net/articles/-/11577/
富士重工、インプレッサ好調で売上高が過去最高
http://sankei.jp.msn.com/economy/news/121030/biz12103016440019-n1.htm
――本日はよろしくお願いします。インプレッサやBRZ、レガシィが絶好調ですね。竹内さんはインプレッサの開発責任者を務められたと伺っていますが、数字としてはどういった状況でしょうか。
インプレッサ
http://www.subaru.jp/impreza/

スバル商品企画本部・竹内明英プロジェクトゼネラルマネージャー:インプレッサは、昨年の震災の影響をもろに受けた車なんです。もともとは昨年6月から本格立ち上げの予定だったのが、10月ぐらいまでずれ込みました。当初どうだったかといいますと、グローバルで月産1万5000台想定の生産計画でスタートしました。それが営業サイドからは月に1万8000台程度まで要望が積み上がって増産の対応に追われ、国内ではご納車までに3カ月以上お待ちいただく状況がしばらく続いてしまいました。現在は生産ラインの増強などを行なって、ようやく通常の状況に戻りつつあります。

――BRZやレガシィのほうもだいぶ好調と伺っていますが。

【竹内】 そうですね。BRZについては、いまご注文いただいても納車が4カ月後といった状況です。

――ではインプレッサの開発の経緯に入っていきたいのですが、竹内さんは先代のインプレッサも統括されていたというお話でした。まず先代の状況からお話いただけますか。

【竹内】 3代目インプレッサのテーマは「新しいデザインで、おしゃれ感覚を持ったハッチバック」というものを新たに打ち出しました。それまでは、やはりステーションワゴン系のボディスタイルだったのです。それを、3代目で明らかに欧州テイストのハッチバックという形にデザインを大きく変更した。それからサスペンションを含めてプラットフォームを刷新して走りの質感を向上させました。パワーユニットはあまり変えられなかったのですが、乗り心地のいい、上質かつスタイリッシュなコンパクトカーを目指しました。

――「欧州テイストのおしゃれさ」というコンセプト自体は、どうやって生まれてきたものなのでしょうか。

【竹内】 インプレッサシリーズが、初代からWRCというラリーの世界選手権で戦ってきてスバルの知名度を欧州中心に上げてきたという実績があり、当時も非常に好調な成績を収めていたのが背景です。モータースポーツの世界では、5ドアの欧州車がみんな上位にいました。そこで5ドアのコンパクトな欧州車の印象を持った車というのが、インプレッサの期待される姿だという議論のもとで、5ドアに舵を切ったのです。

――それが顧客の声としての貴社の受け止めだったということですね。しかし、その想定でおつくりになった車が、お客さんの要望と、残念ながらマッチしなかった部分というのがあったのでしょうか。
写真上が3代目、下が4代目のインプレッサ(写真をクリックで拡大)。

【竹内】 結果として、一番大きな反省は、燃費のところでちょっと出遅れたなというところですね。あとはパワーユニット。エンジンやトランスミッションを従来型に改良を加えたもので搭載せざるを得なかったという事情がどうしてもありまして。世の中が環境時代に突入してきて、そこで出遅れた感があるのと、オートマチックも4速だった。世の中はもうCVT(無段変速機)が出てきたり、5速、6速のオートマだったりという時代に対して、進化感がない、メカに対する不満があったというところ。

スタイル、デザインについては悪くはない。ただ、本当にそのデザインに相応しい機能であったり、お客さまが買う値段でみたときのバリューであったりが、なかなか合格点にいかなかったのではないかと思いました。

たとえば、荷室の容積。メカがありますので、その積み上げでどうしても床が上がり、荷室が圧迫され……、といった形で決まってしまうところがありました。コンパクトにしたから荷室は狭かろうと、当然そうなってしまうのですが、その中でいかに努力したかという部分が少し足りなかったのだと思います。従来までステーションワゴン的なインプレッサだったので、荷室も大きかったんですね。そこをコンパクトにした、イコール荷室が狭い、実用性能を落とした、というような悪い方向のイメージにつながってしまった。

あとは内装の質感でもご指摘を受けました。現在もそうですが、経済的には円高進行や、原価低減を相当迫られていた時期でもありまして。内装の材質や、デザインで部品を少し減らすなど、ある意味見切った部分もあったのです。われわれより一回り小さい、いわゆるコンパクトカーのセグメントがどんどん伸びてきている時代でもあり、少しでもお安く、デザイン的に美しいものであれば買っていただけるのではないかなと思っていた。しかし実はそうではなく、販価は安くても質感がちゃんと高くないとダメだよ、というところの感覚で大きなビハインドが出てしまった。

――価格はいくらぐらいだったのでしょうか。

【竹内】 1.5リッター、2リッター、2リッターターボと3つの車種がありまして、基本グレードであれば150万円くらいからですね。かなり戦略的に、その下のコンパクトカークラスと戦えるというところで設定したのが基本グレードになります。

――150万円で3ナンバー。最上グレードではどれぐらいだったのでしょうか。

【竹内】 最上級グレードだとかなりの装備をつけて250万円ぐらいでしょうか。

――投入時期はいつでしょうか。

【竹内】 国内で2007年の6月からです。