早稲田大学商学学術院長兼商学部長 恩蔵直人(おんぞう・なおと)●1959年、神奈川県生まれ。82年早稲田大学商学部卒。87早稲田大学商学部助手、89年同専任講師などを経て、96年教授に就任。2008年より現職。エステーの社外取締役も務める。近著に『コモディティ化市場のマーケティング論理』『R3コミュニケーション』(共著)、『コトラーのマーケティング3.0』(監訳)など。 

「機能的な価値」「情緒的な価値」の次にくるもの

前回、コトラー教授の話が出ていましたが、彼が唱える「マーケティング3.0」の話をしておきたいと思います。

ここ数年でマーケティングの在り方に明らかな変化が訪れてきているように感じます。3.0があるということは、当然1.0があり、2.0があって、3.0になるわけです。気をつけていただきたいのは、1.0あるいは2.0が駄目になったわけではないということです。

『コトラーのマーケティング3.0』
フィリップ・コトラー、ヘルマワン・カルタジャヤ、イワン・セティアワン著、恩藏直人監訳、藤井清美 翻訳/朝日新聞出版/本体価格2400円

この本に書いてあることをベースに私なりの整理をお示ししますと、マーケティング1.0というのは、製品の「機能的な価値」にフォーカスしたステージです。要するに品質や性能など、製品・サービスの本質のところで勝負する。クルマであれば、燃費であったり、馬力や安全性、居住性などに当たります。これが1.0です。それにだんだん限界が訪れるようになってきて、マーケティング2.0が現れます。

今、世の中に広まっているマーケティングが、だいたい2.0に当たると考えているのですが、この段階になりますと、「機能的な価値」に加えて「情緒的な価値」と言うべきものがクローズアップされてきます。クルマでいうとドアの開閉音などです。ドアの閉まる音などは、クルマの走行そのものにはあまり関係ないわけです。しかしながら、やはり高級車には高級車のドアの閉まる音というものがある。高級車メーカーは、そういったところへ年間で何億円もの開発費をつぎ込んでいます。

たとえばトヨタのレクサスについて紹介してみましょう。このラインでは、パワーウィンドウの動作スピードが変わるようにできているのだそうです。動き始めがゆっくりで、真ん中で速くなり、また閉まる時ゆっくりになる。これは小笠原流の礼法を取り入れて、襖の開け閉めに範をとっているのだといいます。そういった本来のクルマの価値ではない部分に配慮して、価値をつくっていく。

■トヨタ「レクサス」
http://lexus.jp/

洗剤でもそうです。今は洗浄力ではなく香りなどをアピールしていますが、これも情緒的な価値。そういった五感に訴えるようなステージがマーケティング2.0と言えます。

ではこれからはどうかといいますと、機能的な価値、情緒的な価値に加えて「社会的な価値」がないと、もう世の中には受け入れられない。そういう時代に入ってきています。

非常にわかりやすい例の一つとして、花王のアタックネオがあります。すすぎが一回でいいということで、水も時間も電気も節約できる。あるいはトヨタのアクア。リッター40キロという圧倒的な燃費のよさ、小型化することによって価格を抑えた点なども当てはまります。

■花王「アタックネオ」
http://www.kao.co.jp/attack/
■トヨタ「アクア」
http://toyota.jp/aqua/