オフィス向けファイルの「キングファイル」や、ラベルプリンター「テプラ」などで知られる文具大手のキングジム。ところが近年、一風変わった「電子文具」でスマッシュヒットを連発している。安定した事業を飛び出した背景には、どのようなマーケティング戦略があったのか。恩蔵直人教授が話を聞いた。

早稲田大学商学学術院長兼商学部長 恩蔵直人(おんぞう・なおと)●1959年、神奈川県生まれ。82年早稲田大学商学部卒。87早稲田大学商学部助手、89年同専任講師などを経て、96年教授に就任。2008年より現職。エステーの社外取締役も務める。近著に『コモディティ化市場のマーケティング論理』『R3コミュニケーション』(共著)、『コトラーのマーケティング3.0』(監訳)など。 

ファイルやラベルプリンターの需要はピークアウト

――本日はよろしくお願いします。まずは近年の主なヒット商品について、成功の背景や実績などを簡単に教えていただけますか。

田辺賢一広報室長:ここ数年、ポメラやショットノートなどのヒット商品に恵まれました。文章入力に特化した電子文具であるポメラは2008年11月の発売以来、4機種の累計で20万台を売り上げています。スマートフォンで撮影することでデータを取り込めるメモ帳であるショットノートシリーズは、発売1年で100万冊を超えるヒット商品となりました。

田辺:これまでのキングジムは、汎用ファイル「キングファイル」、ラベルプリンター「テプラ」など、法人向け製品が主力でしたが、リーマンショック以降、企業のコストカットが進み、より廉価な製品や、数量自体を削減する動きが広がったため、需要はピークの8割程度まで縮小しています。こうした背景もあり、近年ではビジネス用途といえども個人をターゲットとした製品に注力しています。電子メモ「マメモ」、定点観測カメラ「レコロ」、携帯名刺管理機器「ピットレック」など、これまでの当社の体制では考えられなかったような製品までが登場しています。