意外とよく見るのは「2ちゃんねる」

――マーケティングの手法に特徴はありますか。

亀田:われわれは事前の消費者調査は行いません。その代わりに製品のつくり込みにコストを注ぎ込みます。お客さまが手にとって、「この程度か」と思われるものはつくるな、ということを徹底しています。発売後には消費者調査を行いますが、ほかに意外と真剣に見ているのが2ちゃんねるを始めとするネット上の掲示板です。使った方の生の声が、製品化を手がけた人間には一番ひびくものです。

――競争に対する意識はどうでしょう。ライバルや、その競合品の存在など、何を一番恐れているでしょうか。

亀田:88年に発売した「テプラ」はバブル末期の製品で、大手企業が軒並み参入してきました。しかし当社は現在でもトップシェアを維持していますし、多くの競合製品は撤退していきました。われわれは枯れた技術で勝負するというポリシーでやっていますので、価格競争はある程度織り込んでいます。むしろ分野によっては競合が現れるのを願っているほどです。ある程度製品数がないと、販売店が売り場をつくれないからです。確かにデジアナ分野は簡単にマネできますから、競合があっという間に出てきます。覚悟しているとはいえ、価格競争は望むところではありませんから、機能面やラインナップの拡充など、質の競争に持ち込むのが理想です。

――顧客にとっての価値については、どのような意識をお持ちでしょうか。

亀田:「キングファイル」「テプラ」までは法人需要というマスに目を向けた製品展開でしたが、「ポメラ」以降はニッチを深掘りする戦略に転換を図っています。失敗の責任は現場には問いませんので、狭いニーズであっても熱烈なファンがつくような製品を次々に世に送り出していくのが、顧客が当社に求めている価値だと考えています。

――最後に今後の課題を教えてください。

亀田:現在の問題は現在1割にも満たない海外の顧客をどう開拓していくかということです。これまでわれわれは、日本のお客さましか見て来ませんでした。テプラなど一部製品を中国で展開したりはしていますが、なかなかうまくはいっていません。いかに海外の大きなポテンシャルを取り込んでいけるかが、引き続き取り組むべき課題だと考えています。

――本日はありがとうございました。

 <インタビューを終えて>

ペーパーレス化という世の中の大きな変化を受けて、キングジムは消耗品で稼ぐビジネスモデルを見直した。新しく採用したモデルは、製品を売って完結するという伝統的メーカーのモデルである。製品本体だけではなく、製品に付随するサービスや消耗品でいかに稼ぐかという点に知恵を絞っている企業からすると、逆の流れのようにも感じる。

しかし、近年注目されているマーケテリング3.0の視点を踏まえると、特定顧客の満足以前に世の中にとってのベストを重視しなければならない。キングジムにとっては、古くてシンプルなビジネスモデルを実践することが、むしろエコであり、環境に優しいのであり、世の中にとってのベストなのである。ビジネスモデルの変更に伴って、ターゲットも企業から消費者に変えている。

もちろん、そうした取り組みは、多くの人々から支持を得られるわけではない。事前の消費者調査も行っていない。製品のつくり込み段階に工夫を凝らすことで、一部の人々からは強い支持を得ている。マーケティング・テキストの型にははまらないが、そうした型破りこそキングジムの強さなのかもしれない。(恩蔵)

(聞き手=恩蔵直人、プレジデントオンライン編集部 構成=プレジデントオンライン編集部)