開発プロジェクトには「タフ」なメンバーが必要

――この3代目の結果を受けて、4代目のインプレッサも手掛けられたということですが、開発体制や顧客の声の反映のさせ方など、3代目のときとやり方や意識をどう変えられたのでしょうか。たとえばメンバー構成、つまり開発メンバーの選定などはいかがでしょう。

【竹内】 まず3代目のときは、私が初めてこういう仕事をしたということもあり、無我夢中、暗中模索でした。既存の組織がある中へ、私がそのまま浸かってしまったような仕事の進め方。全体を見る余裕がありませんでした。

スバル商品企画本部プロジェクトゼネラルマネージャーの竹内明英氏

4代目に当たっては、3代目の反省はよくわかっている、お客さんから何を言われているかもわかる、開発のフェーズも理解しています。いつどんなことを言われる、どんなことに応えていかなければならないといったことが整理できていました。自分でストーリーがつくれるようになりましたね。

開発プロジェクトというのは非常にタフなので、メンバー構成もメンタル的に弱い人はダメです。ガンガン自分で主張したり、納得するまできちんと議論をしようとしたりするタフな人材を、各部門にお願いして出していただいたというところもあります。市場導入まで一緒にやっていきますので、メンバーの反応を見たときに、次をやるならこんな人と、というイメージはできていました。

それから一番大切なのは、「お客さま目線」になり得る人かということです。インプレッサはいわゆる「身の丈商品」です。サイズ、値段も含めて自分で買いたくなる車か、そういうマインドを持っているかという問いは、プロジェクトメンバーへ常に投げかけていました。ここが3代目とまったく違うところです。

さまざまな提案が出てくるなかで、「竹内さんどうですか」と上の人にどちらか選べというのは楽です。その前に、なぜそういうことを言うのか、自分がお客さまだったらどちらにしたいのか。これを部門の壁を越えて言うとどうなのかと問うようなことに、プロジェクトの運営を変えました。みんなが主体でみんながお客さま。開発の当初から、お客さまにどう説明していくかを念頭に置いて、逆算して図面を引いていくやり方です。ときには言い訳が必要な場面もあります。そこも、常にお客さまの目線でこうしたのだときちんと答えられる。これは全社の方針で進めてきたことです。

それから、よく言ったのは、わかりやすい商品になっているか。自動車というのはメカの部分を説明しだすと詳しい人に対してはウケがいいのですが、台数を売るためには一般のお客さまにいかにわかりやすい商品をつくるかが問われます。ですから説明できるわかりやすさを追求しました。

いまの仕事は何につながるのか説明してみてくれという問いを繰り返して組み立ててきましたので、非常にブレがなく筋が通っている。横やりを入れられても理路整然と考えているので、明快に説明もできた。こうして4代目の開発は、非常にイキイキとしたものになりました。

――さきほど、お客さんに説明する場面から逆算していくというお話がありましたが、わかりやすいエピソードはありますか。

【竹内】 いろいろありますが、たとえば運転席回りの物入れの大きさとか形状。これを決める段階がデザインの初期にあります。その際、自分がその車を運転するときに、いつも身につけているものをどこに置くか、それぞれ個性もあるのですがだいたい似ているところがある。男性であれば、携帯もそうですがお財布なんていうのは、よくお尻にあって邪魔だったり、料金所で出すときにちょっと置いたりしますよね。これを問いかけました。

そうすると、ドアの内側に手をかけるところ、そこは掘り込みになっていますが、そこにスポッと置けると楽だと思うんです。携帯もよく置いたりする。「だったらそういうサイズにつくってあるか」「みんなの財布入れてみろ」「入らねぇじゃねぇか、ダメだ」と言って、直したことはありました。他にもボトル型のチューイングガムを買ってきて、ここに入るか、入らないならあと5ミリなんとかしてくれ、などと言いながら、中のスペースとそのデザインの整合性を取ったりもしました。

――先代のモデルで指摘された荷室はいかがですか。

【竹内】 荷室に関しては今回、燃料タンクやそれに付随する部品を新しくつくり直してとにかく床を下げることにしました。前後というのはどうしても決まってしまいますから、床を徹底的に下げることにして、いっぱい積んでもまだ容積があるという方向に持っていきました。

さらに日本や欧州向けには、コンパクトなパンク修理キットの採用を前提に、スペアタイヤの格納スペース分まで容積を稼ぐという方針に転換いたしました。もちろん議論はありました。スペアタイヤをやめていいのか、パンク修理キットの対応で十分か。そのときの判断基準も、お客さまはどちらが嬉しいのか。スペアタイヤがあることか、荷室が広くてものが積めたと感じたときか、どっちだ、と。すると、もう考える余地なくスペアタイヤレスで決定。ほかにもリアデフという床下の部品をつくり直すなどして徹底的に床面を下げたんです。市場によっては、スペアタイヤが義務になっているところもありますので、そのための工夫もしてあります。

――いろいろな部署からタフな人間を開発チームに集めてきたというお話でしたが、どういう部署から何人くらい集められたのでしょうか。

【竹内】 私の直属の部下ということでは4名ですが、プロジェクト総勢では50人くらいです。製造の生産技術や生産企画、用品、各設計部、実験総括、購買、原価企画、それから品質保証部門、すべて含めて50人近くおります。実際よく定例で相談しながら動いているのはそのうち20~25人ぐらいでしょうか。