何かを変えるなら一石二鳥、三鳥で

――それまでの商品企画本部はどうしてうまく機能しなかったのでしょう。似たような方たちですよね。それが4代目では見事に機能した。この違いは何でしょう。

【竹内】 SGMは、前社長が中期経営計画を出したときに「お客様視点での商品開発」の具体的な施策の一つとして、間に立つ組織をつくるという方針で生まれたのです。ですから社内的な存在感みたいなものがあります。

以前も機能しなかったということではないのですが、本社にいる人たちとのコミュニケーションが密でなかったのかもしれませんね。4代目からは、本社の商品企画担当がわれわれの動きを常に察知できるような体制になりました。設計でもデザインでも何か進展があったときには必ず彼らを呼んで説明して、わかったと言ってくれれば「じゃあ、次のステップに行こう」といったことを細かく行なっていきました。

従来は、定期的な評価会で良し悪しを判断して次のステップに行っていたのですが、今は事前に担当者レベルでどんどん築き上げていって、評価会の時点ではもうわかっている話を確認するようなスタイルで、自然に流れるような仕組みになりました。

――コミュニケーションがうまくいくようになったから、きれいに解決できたというエピソードはありますか。

【竹内】 たとえば加速性能を決める際、「走りのわかりやすさというのは、何なのだ」という議論を行い、出足の気持ちよさを重視すると決めました。初期の、性能を決める段階で、性能案というものを技術部門と実験部門でつくるのですが、そのプロセスを初めて、SGM含む本社サイドのメンバーに公表したのです。従来であれば、こちらで固めてしまったのでこれしかできません、という決め方が残っていたのだと思います。

ですが、今回は設定した目標に対して、理解をしてもらうイベントや試乗を積極的に行いました。「こういう感じの性能にしようと思っているんだ」というようなことを、まだ試験車もできる前、エンジンだけを載せ替えた車を仕立てて乗ってもらって、初期の段階から意見を聞き、彼らの納得度を見て次のステップにいこう、という進め方をしました。

やはり技術屋の意見だけだと細かいところまで考えすぎてしまい、お客さまの「わかりやすさ」に意識が向かないんですね。メカコンシャス、技術コンシャスになって、お客さまのベネフィットコンシャスではない。加速のときに0コンマ何秒違うんだとかは、データで評価する人たちには大事なのですが、お客さまに対して重要なことなのか。乗り出しのときに、すっと動くほうが大事ではないかと。データももちろん、疎かにするわけではありませんが、データとわかりやすさで重要とする比重を変えたというイメージですね。

――失敗部分について繰り返しお聞きして本当に恐縮ですが、3代目のときは「こういう初期設定をつくりました。これだけ数値が出ているから文句はないでしょう、これでいきます」といった通告のような形で物事が進んでいったということでしょうか。

【竹内】 ありものだから仕方がない、みたいなところは正直ありました。技術の限界だ、みたいなことまで言われたこともあった。やはりお客さまの目のほうが肥えていますから、価格の中でできることはやったつもりとはいえ、社内でもやもやしていたところというのは、市場に出て批判されて、「やっぱり……」となるわけです。ある程度想定していた悪さというのが、3代目のときにはクローズアップされてしまったというところもあるんですよね。ですから4代目を手がけるに当たっては、そこを一気に払拭するぞという思いでやってきました。

――今回の4代目は、やり切った感が強いということでしょうか。

【竹内】 欲を言えばきりがありませんが、いまやれる中で、自分の定めたディレクションの方向通りに商品ができあがったなとは思います。

――いい製品をつくるというのは内向きの話だと思うのですが、やはり市場で売るものである以上、競争相手というのは否応なしに意識されるものだと思います。競合他社やその製品に対する意識についてはいかがでしょうか。

【竹内】 インプレッサがいるクラスは、ライバルがいっぱいいまして。一番はやはりフォルクスワーゲンのゴルフあたり。これは究極のライバルというより、先生みたいな存在ですね。日本車の中で言うと、よくいわれるのがマツダのアクセラですね。あちらもハッチバックとセダンのラインナップだし、ターボを持っていたりするというところもあって、おそらくあちらもわれわれのインプレッサを見ているのだと思います。

そういうところに対して、スバルなら絶対に負けないという特徴はなんて言っても低重心のパワーユニットと、われわれ独自の水平対向エンジンの性能ですね。そういった特徴を持ちながら、価格的には他社のFF車と同じぐらいで出せる。四駆だから特別お金をいただくというよりも、競合と比べてリーズナブルな価格で買えるのに性能は水平対向エンジンの性能がついている分お得だ、といったことを意識していました。

――逆に、ライバルがこれをしてくると嫌だなというところはありますか。

【竹内】 そうですね。パッケージングと視界はスバルのお家芸ともいえる分野。乗員をどこに座らせて、どういうスペースの広さで、荷室をどうするというようなところをわれわれは相当考えています。他社さんだと意外にスタイルのほうの優先度が高く、結果として視界にはちょっと死角が増える、見えづらいところがある、というところに目をつぶってしまう面があるように思います。

スバルの強みはデザインも使い勝手もすべてうまいバランスでつくっているっていうところにあるので、他社さんがわれわれのテイストに近づけてくるようなことがあれば、ライバルとしてわれわれはもっと上をいかなくてはいけない。

――なるほど。あとは、4代目をつくるにあたって床を下げたり加速を工夫したりとさまざまなイノベーションがあったと思うのですが、課題を解決しなければならないときにどのようなアイデアの発想をして、どう集約していくのか。そのプロセスを教えていただけますか。

【竹内】 よく「一石二鳥」ということを言っています。何かを変えるのであれば、変える項目そのものだけではなくて、もう1つ何かメリットを持たせて変えろという言い方をしましたね。もちろん目的があってモノを変えるのですが、そこからもう1ひねりするともっといい付加価値が生まれるのに、そこを考えないでやると非常にお金かかる。