他人からみると「やりすぎ」と思えるほど美容整形を繰り返してしまう人がいるのは、なぜなのか。『顔に取り憑かれた脳』(講談社現代新書)を書いた大阪大学大学院の中野珠実教授は「人間は、自分の顔と他人の顔では『いいな』と感じる基準が異なる。特に自分の顔には、強い加工を加えたほうが『いいな』と思いやすい傾向がある」という。ジャーナリストの末並俊司さんが聞いた――。(後編/全2回)
鏡に映った女性の顔
写真=iStock.com/Yue_
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人間は自分の顔を“VIP扱い”している

前編から続く)

――人間は自分と他人の情報をどのように区別しているのでしょうか。

心理学の世界にはセルフ・アドバンテージという言葉があります。自分に関わる情報を優先的に扱うことですね。

パーティーなど、ザワザワと騒がしい場所であっても、自分の名前を呼ばれるとすぐに気づく。こうした現象を「カクテルパーティー効果」と呼びます。

人間は、自分の関わる情報については注意が向きやすく、常に自分に関連した情報は、脳での情報処理の過程で重要視する傾向があります。人間は生き延びるために、常に最適な意思決定をしていかなければなりません。そうしたときに、自分に関連した情報は意思決定において一番大切なのです。だから、自分の名前を呼ばれたらパッと気づくのだと考えられています。

これは顔についても同じことが言えます。例えば、卒業アルバムの集合写真に写る自分の顔はすぐに見つけることができます。「自分の顔を探しなさい」という指示を受けると、他人の顔よりも素早く正確に見つけることができるということは、多くの研究で報告されています。

自分の顔だけ優先する、いわば「自分の顔バイアス」は、顔の数が増えても、顔の向きが横向きでも、逆さでも起きます。どうやら、自分の顔は、脳の中で「VIP扱い」されているようなのです。

そのVIPっぷりは大したもので、ほんの一瞬、顔の画像が表示されたことに気づかないくらい短い提示であっても起こります。例えば、自分の顔と他人の顔を並べて0.02秒間だけ表示しても、自分の顔があった場所に注意が向くのです。