人間とそれ以外の動物の「顔」には決定的な違いがある。『顔に取り憑かれた脳』(講談社現代新書)を書いた大阪大学大学院の中野珠実教授は「人間はほかの動物に比べて目や眉が進化している。これは群れを作って集団で生活するうえで、意思疎通がしやすいからだと考えられる」という。ジャーナリストの末並俊司さんが聞いた――。(前編/全2回)
人間の目のアップ
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白目が発達したのは人間だけ

――人間とそれ以外の動物の「顔」には決定的な違いがあるそうですね。

まず人間は、目と眉が他の多くの動物と異なった特徴を持っています。目は横長で、そして黒目と白目がはっきり分かれています。

人間に白目の部分があることについて、多くの人が当たり前のことのように思っていますよね。ですが、霊長類を含め、人間以外の多くの動物は、黒目の周りにメラニン色素が入っていて、人間における白目の部分が茶色である場合が多いです。なので、どこを見ているのか分かりにくい。一方、人間は黒目以外の色素が抜けて白く際立っているため、黒目がどこを見ているのかが分かりやすいんです。

実はこれ、自然界ではとても危険なことなんです。たとえば、敵と向かい合っているときなど、自分がどこを見ているのかが相手に容易に伝わってしまいます。また、仲間と餌を奪い合っているときなども、どこを見ているのかが分かるので、視線の先にある餌を取られかねません。

たとえばチンパンジーなどの霊長類も、まれに白目の部分の色素が抜けた個体が現れることがあります。遺伝子変異が起きやすい場所なのかもしれません。おそらく、われわれ人間の祖先にも同じことが起こったのでしょう。進化の過程でそれらの遺伝子が適応的に残って、いま現在の目の構造になっていったと考えられます。

そのような進化を遂げた理由としては、コミュニケーションしやすい目の構造を持つ個体のほうが生存に適していたからだと考えられます。群れを作って集団で生活する場合、お互いがどこを見ているのかが分かる方が意思疎通をしやすい。そういう意味で白目ってすごく重要なんです。どこに注意を向けているのかが容易に分かる。そのおかげで意思疎通しやすくなったのです。