機械や動物とも「まばたきのシンクロ」が起きる

――選択的なまばたきについて、ほかにどんなことが分かっているのでしょうか。

この研究結果を基に、再び『Mr.Bean』を使ってさらに研究を進めていきました。脳神経科学の研究手法を活用して、鑑賞者の脳内活動を機能的磁気共鳴画像法(fMRI)で測定しました。すると、無意識に生じたまばたきをきっかけとして、脳内の活動領域が一時的に交代していることが分かりました。

目を開けて映像に注視している時は、外界にある特定の対象に注意を向けることに関わる「注意の神経ネットワーク」が活発に機能しますが、まばたきをすると、その活動が一時的に低下します。一方、さまざまな内的思考に関連し、通常は安静時に活動している「デフォルト・モード・ネットワーク」が、まばたきと同時に活発化していました。

まばたきが脳内の主要な活動領域を切り替えるスイッチとして働いているのではないか、とわれわれ研究グループでは仮定しています。

中野珠実『顔に取り憑かれた脳』(講談社現代新書)
中野珠実『顔に取り憑かれた脳』(講談社現代新書)

実験を重ねるうちに、相手がまばたきをすると、自分も釣られてまばたきをする。つまり、相手のまばたきに自分もシンクロしてしまうということも判明しました。これは人と人だけではなく、アンドロイドなどの機械との間でも起きることが判明し、麻布大学獣医学部との共同研究では、犬や猫などのペットと飼い主のあいだでも、まばたきのシンクロが起こることが分かりました。

よく、対人コミュニケーションにおいて「あの人、なんか間が悪いよね」などと思うことがあると思いますが、この「間」という感覚とまばたきには深い関係性があると考えられます。

私が顔に取り憑かれるようになったのは、そうした研究が背景にあります。(後編に続く)

【関連記事】
【後編】なぜ美容整形は「やりすぎ」になりやすいのか…「自分の顔が許せない」という脳科学的なメカニズム
本当に出世するのは「仕事がデキる人」より「デキそうな人」…「顔の印象が他人を動かす」という残酷な真実
「境界知能」は「低学歴」のようなレッテルになっている…専門医が「安易に境界知能と呼ばないで」と抗議する理由
最悪の場合「緑内障」になってしまう…「最近、視力が落ちている」という人が飲み過ぎてはいけない飲み物
「血液型で病気リスクがこんなに違う」O型に比べ脳卒中1.83倍、認知症1.82倍…という血液型とは何か