中国発の「SHEIN(シーイン)」は、洋服の多くが1000円前後で買える激安ブランドで知られている。経営学者の宮下雄治さんは「中国企業のECはこれまで返品対応が悪かったが、最近はそうした『泣き寝入り』はほぼゼロになった。背景には中国企業のしたたかな戦略がある」という――。

※本稿は、宮下雄治『こうして顧客は去っていく サイレントカスタマーをつなぎとめるリテンションマーケティング』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。

「返品対応に関するレビュー」まで依頼する周到さ

筆者は中国企業のECをよく利用してきましたが、最近ではサイズ違いや不良品などで返品を要求すると、ほとんどの場合でスムーズに対応してくれます。かつてよく遭遇した泣き寝入りの経験は、ここ数年ではほぼゼロです。購入者の怒りを鎮火して不満を抑えることが目的と思われますが、素早い返品・返金処理がなされます。

ECでの買い物で、返品に応じてくれなかったケースや、応じてくれたとしても返送料が高くつくことで泣き寝入りした経験をしたことがある方もいるでしょう。そのような場合、次の機会も当該企業を積極的に利用したいと思えるでしょうか。「品質が悪い!」という商品に対する印象だけでなく、「対応が悪い!」「失敗した!」というネガティブな印象のみが残りやすく、結果として、顧客は去っていくでしょう。

ECが発展を遂げた中国では、企業に返品・返金を要求し、その迅速な対応に安堵あんどするや否や、「返品・返金対応に関するレビュー」の依頼が届きます。商品に対する不満を返品対応でカバーすべく、低評価のレビューを少なくする狙いを読み取ることができます。

むしろ、返品対応で高評価レビューに置換させる中国企業のしたたかさを感じます。

「そこまでしてくれるの?」とプラスの評価に転換する

グローバルに急成長を遂げているSHEIN(シーイン)では、原則、返品は無料になりました。そして、24時間以内に宅配業者が荷物を引き取りにきます。返品依頼をすると24時間のタイマーが起動します。これは商品を出品している業者に向けたタイマーであり、24時間以内の返品対応を義務づけています。

中には、不良品の交換を依頼した際に、「返品なし返金」で対応されることがあります。これは、「返金には対応するが、商品の返送は不要」というものです。

返品を受けつけないのは、輸送コストの負担が大きいことに加え、返品対応の手間などユーザーの負担やストレスをこれ以上増やし、低評価レビューが増えることを危惧した対応とも言えるでしょう。

こうしたクレーム対応により、顧客の怒りの大部分を鎮火することができます。それどころか、顧客に寄り添った対応は「そこまでしてくれるの?」というプラスの評価に転じ、クレーム客からファンへ変える力もあるのです。