5年後の再シミュレーション…まさか「77歳で赤字転落」に愕然

両親亡き後、長男が77歳になった頃に貯蓄残高は早くもマイナスに転じ、90歳まで生きると4000万円以上もの不足が発生する、という結果になったのです。前回、80歳になった時点でも2000万円以上残高があるのとは天と地ほどの差です。

【図表】今回再試算した将来の家計の状況
筆者作成

貯蓄が底を突くのは47年後のことですから、直ちに心配する必要はありませんが、あきらかに何らかの改善が必要な状況です。春日さんは、分析結果を見て動揺していました。

「えっ、これはどういうことなのでしょうか? そんなに生活は変わらなかったように思うのですが……」

「確かに、支出が増えたわけではありませんし、収入の減少は当初の予定どおりです」

「では、なぜ? 前の分析が間違っていたというのですか?」

「いや、そうではないのですが」

私は少したじたじです。

「実は、前回と変わった点が1つありました」

私は説明を始めました。

「前回の分析の際は、消費者物価の上昇率は0%近辺の状況が続いていました。そこで、シミュレーションでも物価の上昇率は0%という前提で計算しました。ところが、最近は状況が変わりました。昨年(2023年)は消費者物価の上昇率が3.2%となっています。今年はそれよりは下がるとの見通しですが、日本銀行は2.0%を目標としています。よって、今回は2.0%で計算しました」

「それだけでこんなに変わるのですか?」

「そうなんです。長期にわたる分析だと、前提条件が少し違っただけで結果が大きく変わります」

「では、もう息子は生きていけないということなのでしょうか?」

「いや、まだそう決めつけるのは早すぎます。今は物価が上昇しているのですが、金利はまったく上がっていません。預金金利はほとんど0に近い水準です。そのために、貯蓄で生活する人にはとても不利な状況になっています。一般的に、物価が上昇するような状況が続くと、金利も上がる傾向があります。金利がまともに付くようになれば、状況は改善されます。まだしばらくは低金利が続きそうですが、長い目で見れば、今の状況が続くとは限りません」

「もう少し様子を見る必要があるということですね」

「そうです。また5年後ぐらいにシミュレーションをすると、また違った結果になると思います」

「そうですか。少し安心しました。当面はどんなことをしておけばよいでしょうか?」