全国に60店舗を展開する「久遠チョコレート」(本店:愛知県豊橋市)は、障害者や子育て中の女性などフルタイムで働くことが難しい人たちが多く働いている。どうやって店を運営しているのか。代表を務める夏目浩次さんの著書『温めれば、何度だってやり直せる チョコレートが変える「働く」と「稼ぐ」の未来』(講談社)より一部を紹介しよう――。
上質なカカオ×ドライフルーツ・ナッツを贅沢に練り込んだ看板商品「QUONテリーヌ」
上質なカカオ×ドライフルーツ・ナッツを贅沢に練り込んだ看板商品「QUONテリーヌ」出典=久遠チョコレート名古屋滝ノ水店/PR TIMESより

「働けない」「稼げない」は彼らだけの責任なのか

もともとは「障害者の月給1万円という壁を打ち破りたい」「障害者が働く場所、稼げる場所を作りたい」という思いを抱いて始めたパン工房であり、チョコレート屋だった。そして現在、久遠チョコレートの従業員の6割は、確かに障害のある方々だ。

ところが、開業して時間が経つほどに、「働けない」「稼げない」という問題は、障害者だけにあるわけではないことを思い知ることになった。「久遠チョコレートで働きたい」という問い合わせがあまりにも多いからだ。

彼らは、「働きたい」「稼ぎたい」と思っていても、今の日本社会の中では、その場所を見つけられていない。「できない」「使えない」と社会から追いやられてしまっているのだ。だから僕のところにやって来る。

しかし、彼らに会ってみて思うのだ。そうなってしまっているのは、果たして彼らだけの責任なのだろうか? そうしてしまっているのは、社会の側に包容力が足りないからなのではないだろうか? 「使える/使えない」の物差しは、そんなに絶対的なものだろうか?

障害の有無は聞かない「面接でする2つの質問」

僕が、久遠チョコレートのスタッフの採用で重視しているのは、学歴でもキャリアでもない。

もちろん障害の有無でもない。その人が「どんな人か」という人物優先だ。労務管理の一環として保存する必要があるので、履歴書は一応持参してもらう。でも僕は、学歴、職歴などが書かれている左側は見ていない。

重視しているのは面接。面接といっても肩の凝るものではなく、ほとんど雑談。長い時は1時間以上話すこともある。対話のなかで、履歴書では分からない、その人の人物像が浮かび上がってくることも多いからだ。

僕が面接で必ずしている質問は2つ。それは「周りからどんな人だと言われますか?」と「将来の夢は何ですか?」というもの。

「周りからどんな人だと言われますか?」と聞くのは、単純にどんな人なのかを知りたいのと、自分がどんな人間なのかを一生懸命考え語っている姿で、嘘のないその人自身が伝わってくるからだ。

「将来の夢は何ですか?」と聞くのは、何か目標を語れる人はやっぱり素敵だと思うから。どれだけ小さな夢でもいい。たとえ不器用な答え方でも、そこに人柄を感じることができるので、必ず聞くようにしている。

「周囲からは明るくて頼り甲斐があるタイプだとよく言われます」とか「将来の夢は御社で人間性を磨いて、チョコレート文化を日本にもっと根付かせることです」といった、就活マニュアルや転職マニュアルに書かれているようなキレイな答えを期待しているわけではないのだ。