高齢者というだけで賃貸契約を断られ、住まいの見つからない「漂流老人」が増えている。司法書士の太田垣章子さんは「『貸さない家主が悪い』と言われるが、民間の家主だけが大きなリスクを負うのはあまりに酷だ。たとえば、私が関わった83歳の男性は、賃貸住宅をゴミ屋敷にしていて、家主には数百万円の負担がかかった」という――。

※本稿は、太田垣章子など共著『死に方のダンドリ』(ポプラ新書)の第4章「老後に住める家を見つけるダンドリ」の一部を再編集したものです。

古いアパート
写真=iStock.com/Kunihito Ikeda
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かつて高齢者は「優良顧客」だった

2018年に行われた調査でも、家主や不動産会社の大半が「できたら高齢者に貸したくない」と思っているという結果が出ています。そこには、賃貸借契約の相続や孤独死に絡む問題以外にも、さまざまなトラブルがあることがうかがえます。

・ 高齢者の認知症が進み、実質面倒をみなければならない
・ 家族が対応しない。言ってもしてくれない
・ 共有部分で失禁・糞尿をする(制御できない)
・ 電球を替えられない、テレビが映らない(単なるコンセント抜け)、エアコンのリモコンが反応しない(単なる電池切れ)などの理由で呼び出される
・ 耳が遠く、大きな音でテレビを視聴するため、他の入居者とトラブルになる
・ 室内を片づけられず、汚部屋になる
・ 隣人に金の無心をしたり、被害妄想で近隣や警察に迷惑をかけたりする
・ ボヤ程度だが、火事を起こした
・ 生活スタイルの違いから、隣人と生活音トラブルになる

一昔前までは家族や親戚が対応していたことを、民間の家主や不動産会社が対応しなければならない状況が起こっているのです。彼らができるだけ高齢者に貸したくないと思うのも、仕方のないことだと思ってしまいませんか。

本来なら家主側にとって、高齢者の賃借人はいったん入居すると若い人ほど引っ越しすることが少なく、結果として長期入居してくれる「優良顧客」です。しかし、老化が進むとさまざまなトラブルを引き起こす可能性もありますから、入居審査の判断は簡単ではありません。

孤独死以外にもある高齢者の賃貸トラブル

若い人もトラブルを起こすことはありますが、家主側の負担が大きい高齢者によるトラブルのほうが数が多いといえます。ところがトラブルの相手が高齢者の場合、法律だけで事務的に解決できないことも多々あります。

たとえば、賃借人が家賃を滞納して、話し合いでは解決できなかったとしましょう。そのときは訴訟手続きで明け渡しの判決をもらい、強制執行という手続きで滞納した賃借人を強制的に退去させることができます。

ただ、高齢者の場合はスムーズに退去させられないこともあります。執行官が「この高齢者をここから追い出した場合、その後生きていけるのか?」とためらってしまうと、判決は出ていても執行してくれない場合があるからです。

こうなると家主は大変です。家賃を払ってもらえないから仕方なく訴訟を起こし、判決をもらって強制執行を申し立てたのに退去させられない。八方塞がりになってしまいます。

高齢者が賃貸住宅を借りにくいことを象徴する、リアルな実態をひとつ紹介しましょう。司法書士として私が実際に関わったケースです。