独りで住むには贅沢…住み替えを怠った83歳男性のケース
83歳になる賃借人の男性が、家賃を滞納しました。
滞納額は既に80万円を超えています。部屋は45m2の2DK。家賃は月10万7000円でした。ひとりで住むには、かなり贅沢な部屋です。
この家賃帯なら、月々30万円くらいの収入が必要でしょう。そもそも年金額以上の家賃ですから、よほどの資産がない限り払い続けることはできません。滞納が始まったということは、貯金が底をついたということでしょう。
話をするために現地を訪れても、本人はいつも不在。高齢者の場合には、在室していることが多いのですが、この賃借人のおじいちゃんにはなかなか会うことができませんでした。しかも夏の暑いさなかに、電気・ガス・水道も止められていました。
生活はかなり追い詰められていたのでしょう。折しも、連日35度を超える酷暑。室内で倒れているのでは? と心配すらしましたが、当の本人は朝起きたら身支度をして図書館やスーパー、複合施設の中で過ごしていたようです。
滞納の理由は、安い物件に転居するタイミングを逸したからに違いありません。賃借人は72歳まで、タクシー運転手として働いていました。仕事している間は、年金も加算されて、生活はできていたはずです。現役のタイミングなら、安い身の丈に合った部屋への転居はできたでしょう。
家賃を滞納しても明け渡しを拒絶
裁判で、おじいちゃんは滞納していることは認めたものの「25年以上借りているんだから、自分が最期まで住んだとしても罰は当たらない」などと暴言も吐いていました。しかし、裁判官に一喝されて黙るしかなく、その場で明け渡しの判決が言い渡されました。
こうなると最終的には、強制執行で部屋から退去させられてしまいます。法廷を出た後、おじいちゃんに説明すると「それは困る。助けてほしい」とすがってきます。こうなると私も放っておくことができないので、その足で一緒に役所に行きました。
住まいのエリアの高齢福祉課(場所によって担当課の名前は変わります)では、低所得の人たちの住まいも確保されていました。ところが、驚くことにおじいちゃんは「引っ越しは断ります!」と言って役所に行ってから意思を翻したのです。
福祉課も本人が「お願いします」と言えば手を貸してくれますが、本人が拒否してしまうと権限がないために、何もできなくなってしまいます。
裁判所で「助けてほしい」とお願いされたから、私もわざわざ役所までおじいちゃんを連れて行ったのに、その場で「引っ越しは断ります!」と言われてしまうと、もうお手上げです。時間の問題で執行になることを伝えても、本人が首を縦に振りません。そのため、身内でない第三者の私も、福祉の人たちも何もできなくなってしまいました。