「貸さない家主が悪い」とは誰も言えない

高齢になれば、兄弟姉妹も高齢なので連帯保証人になれるほどの経済力がありません。そうなると子どもか甥・姪になりますが、そもそも疎遠で交流がないのが大半です。

そのような背景があるので、身内の連帯保証人を求められてしまうと、この段階でほとんどの人が撃沈。ひとつめのハードルを越えられず、部屋探しは諦めるしかなくなってしまいます。

また高齢になると日々の生活で精一杯で、先のことを考えて行動できないようです。見たくないのか、自分の収入もいつか減るということをなかなか想像しません。その時のために、予め安い物件に引っ越そうとせず、問題を先延ばしにしてしまいます。

さらに今より安く狭い物件に引っ越すためには、当然、荷物も断捨離していかねばなりません。これがふたつめのハードルです。元気そうに見えても、年を取ると荷物の処分を自分ではできません。誰かの手を借りなければ、断捨離や部屋の片づけは難しくなります。

結果、安い物件に引っ越すことができず、トラブルに発展してしまう高齢者は後を絶ちません。

家主側が一度こういったトラブルを経験してしまうと、次から高齢者には貸さないと決めるのは当然の帰結です。結果、高齢者がますます借りられない世の中になっていきます。「貸さない家主が悪い」とは、誰も言えないのです。

歩行補助器を使って歩く高齢者
写真=iStock.com/SetsukoN
※写真はイメージです

家賃滞納で明け渡しを求められるケースが続々

代表的な例を見ていただきましたが、私は今も毎週のように裁判所に通い、複数の賃貸トラブルを解決するために走り回っています。すべて紹介することはできませんが、他にもこのような事例があるということを知っていただければと思います。

・高齢者が契約直後から家賃を滞納し、この5カ月間、ただの1円も家賃を払っていない。携帯電話は変更され、連絡がつかず、裁判にも出廷しない。しかし裁判官は、判決によって賃借人の住んでいる家を奪うことになる重さにプレッシャーを感じるのか、すんなりと判決を出してくれない

・70代の賃借人が家賃を50万円近く滞納。家主から明け渡し訴訟を起こされた。年金はほとんどないのに、家賃が7万2000円。未だに働いているので(働かざるを得ない)生活は細々と何とかなるものの、家賃まで支払えないとのこと。家賃が生活保護受給の制限内であれば、差額を補助してもらえるが、家賃価格が高かったため何の補助も得られず、本人も動くに動けない状態だった

・明け渡し訴訟の判決が出て執行も終わった80代の賃借人。認知度や介護度を考えるとグループホームや特別養護老人ホームには入居できないため、安い老人ホームを探しているが身元保証人がいない。身元保証人がいないと、この高齢男性が亡くなった後、退所手続き、部屋の片づけと荷物の撤去をしてくれる人がいないため、安い老人ホームにも入居できない