・老朽化の進んだ築60年以上の賃貸住宅を取り壊したいが、80代の賃借人が立ち退き交渉に応じない。滞納額は200万円近くにのぼっており、家主が明け渡し訴訟を起こした。賃借人は目を患っていて、視力がかなり低下している。身元保証人がいなかったが、奇跡的に受け入れてくれる施設が見つかるのを待って強制執行が行われた。部屋はいわゆる「汚部屋」になっていたが、その中から120万円以上の現金が見つかった。メガバンクに2000万円以上の預金があることも判明した。お金は持っていたものの、お金だけが頼りと思い、家賃を払わなかったとのこと。受け入れ先を探すのに苦戦したため、解決までに1年近くを要した

・入居者が特別養護施設に突然引っ越してしまい、夜逃げ状態に。貸主、管理会社に何の連絡もなく、行政が引っ越しさせた。その後、弁護士から一方的に動産放棄の連絡と自己破産の通知が送られてきた。未回収の家賃だけでなく、荷物の撤去費用まで負担することに。それが1年の間に3回あった。いずれも親族からの支援がない方で、連帯保証人も支払いが困難とのことで、回収不能に陥った。行政にも連絡したが、「仕方がない」と言われた

・高齢者に賃貸物件を貸した。その後、高齢者施設との併用となったが、どこの施設に行っているかがわからない。ケアセンターに連絡したところ、プライバシー保護を理由に教えてもらえず、施設名どころか本人の生死すらわからない状態が続く。ならばと、住民票を取得しようとしても、役所はさまざまな書類を要求してきてなかなか取得させてくれない

古いアパートの外廊下
写真=iStock.com/Yuki-Okamura
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仲の良い家族がいることを前提にした法制度の限界

このような問題は今、全国各地で頻発しており、最近ようやくメディアで報道されるようになってきました。日本は人口対比で認知症患者が多く、高齢化に伴って認知症になる人はますます増えると予想されています。

賃貸住宅に住んでいる人が認知症になるケース、病気が原因で賃貸トラブルになるケースはこれからもっと出てくるでしょう。しばらくは賃貸借契約にまつわる問題は増えることこそあれ、減ることはないと思われます。

【図表1】人口1000人あたりの認知症患者数
【図表2】国別・年齢階層別に見た認知症有病者率