※本稿は、太田垣章子など共著『死に方のダンドリ』(ポプラ新書)の第4章「老後に住める家を見つけるダンドリ」の一部を再編集したものです。
高齢者というだけで賃貸住宅を借りられない
高齢者――。ただそれだけで部屋を借りにくくなる現実があることを、ご存じでしょうか。
生きるのに欠かせないと言われる『衣食住』ですが、高齢になれば、日々着るものはすでに持っています。お出かけのための洋服や装飾品も、身に着けて行く場が少なくなれば必要がありません。食べるものへの欲求も小さくなっていくでしょう。連日、高級なフランス料理や肉なんて胸やけして食べられません。このように、高齢になると『衣』も『食』も重要度は低くなります。
一方、『住』は誰にとっても、何歳になっても必要不可欠な生きる基盤です。ところが、その住まいを借りられないだなんて、そんなことが本当にあるのかと思われるかもしれません。
しかし実際のところ、70歳を超えていることを伝えただけで、不動産会社の反応は鈍くなります。場合によっては、内覧希望をメールで送っても返事すら返ってこないこともあります。
大手企業を勤め上げて資産を持っていても、近くに身内が住んでいても関係ありません。高齢者というだけで、家主も不動産会社も、積極的に部屋を貸すのを嫌がるのです。
家主が恐れる孤独死のリスク
私は20年前から、ふとしたことをきっかけに賃貸トラブルに関する訴訟手続きに関わるようになりました。
特に家賃を払わない滞納者の明け渡し訴訟が多く、その数はこれまでに3000件弱にのぼります。件数的にはもっとたくさん携わっている先生もいらっしゃると思いますが、相手方との関わり方の深さでは、日本一だと自負しています。なぜなら、相手方となる滞納者は最終的に住む場所を失うことになるため、どうしても深く関わらざるを得ないのです。
そのため私は、彼らが部屋を明け渡したあともホームレスにならないように福祉と繋いだり、次の転居先を探したり、親御さんのところに一緒に頭を下げに行ったりと、時には司法書士の仕事の枠を超えて関わりながら今まで数々の難題を解決してきました。
そんな私でも滞納者の年齢が70歳を超えてくると、心配が高じて夜も眠れない日が増えてきます。高齢者の場合、次の部屋を貸してくれるところがなかなか見つからないからです。
なぜだと思いますか。理由はさまざまありますが、一番は「高齢者には孤独死の恐れがある」からです。