すべてが家主側の負担になる

また相続財産清算人はボランティアではないため、賃借人の資産から報酬が得られないとなると辞任せざるを得なくなることもあります。そうなれば、家主側は何もできない、ということになってしまいます。結果、家主側にすべての負担がのしかかってしまうというわけです。

部屋の賃借人が孤独死した場合の、具体的なトラブルを挙げてみます。

・相続人である家族が相続放棄してしまったので、荷物の処分をしなければならなくなった

・遺品整理に多額の費用と時間がかかり、その費用が家主負担となった

・死臭や亡くなった痕跡が残り、次の借り手が見つからず、建物が取り壊しとなった

・生活保護受給者だったが、亡くなった日からの家賃補助が打ち切られ、室内の家財道具撤去費用を負担してもらえなかった

・連帯保証人である遺族に無視され、遺品の引き取りにも来ない

・病死であっても近隣の噂で耳に入るので、募集しても入居申し込みがない

こうした声を聞くと、家主や不動産会社が「できれば高齢者に貸したくない」と思うのは無理からぬことかもしれません。

孤独死によって「事故物件化」する賃貸が続出

いま賃貸物件に住んでいる中高年も10年、20年と経てば高齢者になり、亡くなる可能性が高くなります。孤独死もあるでしょう。

基本的に、事故物件となるのは自殺や他殺が原因であり、病気等で亡くなった場合は含まれません。ところが病死であったとしても、発見が遅れてしまって特殊清掃が必要になったりすると事故物件になってしまいます。そうなると自殺や他殺のように告知義務も発生し、次の入居者を確保できにくくなるという問題が生じてきます。

孤独死が原因で事故物件になった場合の家主や不動産会社の悩みを紹介します。

・ 孤独死が発生したが身寄りがなく、ご遺体の対処、滞納された賃料、リフォーム費用などがすべてこちらの負担となった。賃料を下げても風評被害でその後の入居者を見つけることができなかった。不動産の売却依頼を受けたが、やはり売れず、苦労した

・ 浴室で孤独死が発生。死亡翌日に発見され、病死だったことから本来次の入居者への告知義務はないが、入居後に知ることになる可能性が高いため、告知をしている。浴槽の交換をして家賃も下げたが、入居希望がなく、ずっと空室のまま。このようなことがあると、高齢者への紹介には二の足を踏んでしまう

・ 木造2階建てアパートで高齢女性が浴室で孤独死。原因は心不全。ご子息が母親と連絡が取れないことを心配して入室確認し、死亡が発覚した。死後2週間ほど経っていた。残置物は処理業者に依頼して処分。しかし腐敗臭は残ったため、賃貸物件として貸すことが不可能に。他の部屋の入居者も徐々に退去。その後、家主の希望もあって募集はせず、建物は解体して更地に。もともと家主は貸さないと言っていたにもかかわらず、死亡した高齢女性がどうしても借りたいと申し出て貸した経緯があったため、家主は今後中高年の単身者には貸さない方針を明確にした