日本が学ぶべきなのはアメリカだけではない
このように広範な分野での生産性の低下は、「日本はキャッチアップを果たしたのだから、これからは独創性を発揮しないと発展できない」という言説がまったくの誤りであることを示す。これほど広範な部門で遅れているのだから、日本はキャッチアップをしなければならない。なぜキャッチアップできないのかという問題意識が必要だ。
これに関連して、前掲図表3で興味深いのは香港だ。まさにアメリカと同じ所得になったあと、停滞している(これは政治情勢も関係しているだろう)。香港なら、「もはやキャッチアップ型の成長はできない。これからの成長を支えるのは独自性と独創性だ」と言ってもよいかもしれないが、日本でそう言うのは全くの間違いだ。
なお、香港は平均寿命も日本を抜いて世界一である(日本は2位、厚生労働省「令和4年簡易生命表の概況」表5参考、2023年7月28日)。無理やりの延命治療がなされているとも思えないので、健康寿命も世界一だろう。日本が学ぶべきことは世界にはいくらでもある。
経済発展できない2つの理由
なぜキャッチアップできないかといえば、私は、日本の行政のラダイト運動(機械打ち壊し運動)と護送船団行政大好き体質によると思う。
ラダイト運動とは、たとえばコロナ下でのPCR検査が目詰まったことに表れている。PCR検査の目詰まりとは、安倍晋三首相(当時)がPCR検査の拡大を指示しても増加しなかったことである。PCR検査が増えなかったのはなぜかと言うと、検査を手作業でやっていたからだ。「日本生まれ『全自動PCR』装置、世界で大活躍、なぜ日本で使われず?」(TBS NEWS 23 2020/06/29.)というTBSのニュースがあった。
検査をピペットで手作業でやっていれば、1日何百万回なんてできない。機械でやればできる。機械でやることを厚生労働省が邪魔していた。この自動機械は日本製で、全世界で使われているのに、厚労省は機械の導入を遅らせた。私は、これは厚労省による機械打ち壊し運動、ラダイト運動だと思う。
韓国は、コロナに対してすぐさま自動機械で大量検査した。検査の生産性は日本の100倍以上だろう。韓国では、あらゆるところでこのような生産性の上昇が実現している。だから、全体として生産性が上がり、賃金が上昇し、日本を追い抜いた。